京セラ、理化学研究所(理研)、オーガンテクノロジーズの3者は7月12日、毛包器官再生による脱毛症の治療に関する共同研究を開始すると発表した。

毛包器官再生による脱毛症治療の実現に挑む共同研究チーム。オーガンテクノロジーズは理研多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダーの知財を保有するベンチャー企業。

(左から)京セラの稲垣正洋 研究開発本部長、理研多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝 チームリーダー、オーガンテクノロジーズの杉村泰宏 代表取締役

毛包とは毛を生み出す器官で、表皮が内側に入り込んだ部分を指す。他の器官と同様に胎児期に上皮細胞と間葉系細胞の相互作用によって形成されるが、他の器官が胎児期にしか形成されないのに対し、毛包は周期的に再生を繰り返しており、毛包上部の皮脂腺付近にあるバルジ領域に存在する毛包上皮幹細胞と、先端(底部)の毛乳頭にある毛乳頭細胞が相互作用して、毛包再生によるヘアサイクルが起きると考えられている。この毛包が男性ホルモンの影響で小さくなったり、自己免疫や外傷で破壊されることが脱毛症を引き起こす原因となる。

理研多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダーらはこれまで、マウスを用いた実験で歯や涙腺、毛包などの器官に由来する上皮性幹細胞と間葉性幹細胞から器官原基を作成し、それぞれの器官を再生することに成功している。

毛包の構造と再生毛包原基の構成 (出典:理化学研究所)

今回の共同研究では辻チームリーダーらによる研究成果をベースに、毛包再生技術による脱毛症治療の実現に向けて細胞培養技術や移植技術の確立、移植機器の開発を進め、2020年以降の実用化を目指す。具体的には理研およびオーガンテクノロジーズが細胞培養技術やヒトへの臨床応用に向けた細胞操作技術の開発、製造工程の確立、モデル動物を用いた前臨床試験などを、京セラが細胞加工機器の開発を担当する。

同技術による脱毛症治療のメリットとしては、髪の量を増やせることと侵襲性が低いことが挙げられる。例えば、男性型脱毛症に対する治療法としては、育毛剤や自家単毛包植毛手術があるが、前者の場合は髪が無くなってしまうと適用できず、後者の場合は単純に毛包を移植するだけであるため毛包の数は増えない。また、自家単毛包植毛手術では後頭部から1.5×10cm程度の皮膚を移植するため、後頭部に大きな傷が残ってしまう。一方、辻チームリーダーらの技術を用いる治療では、後頭部からサンプルを採取し、そこから上皮性幹細胞と間葉性幹細胞を培養、再生毛包原基を作り出すため、毛包(毛髪)の数を増やすことが可能となる。サンプルの採取も少量のため傷が小さくて済む。辻チームリーダーによると、移植した再生毛包原基から生えてきた髪は周囲の毛の流れに沿って生え、一旦接着すれば通常の髪と同じようにシャンプーなども可能とのこと。

再生毛包原基による毛包再生治療モデル(下)と従来の自家単毛植毛術の比較 (出典:理化学研究所)

ただ、現時点では脱毛症治療として活用するには器官再生能のある幹細胞の培養技術がない、実用的な立体器官再生技術や器官原基製造の機械化・大量製造技術の開発が必要など課題も多く、今回の共同研究ではこれらの課題の解決につながる成果が期待される。