熊本大学らは7月8日、2億1500万年前の三畳紀後期に巨大隕石が地球に衝突し、海洋生物である放散虫やコノドントの絶滅を引き起こしたことを明らかにしたと発表した。
同成果は、熊本大学先端科学研究部 尾上哲治 准教授、海洋研究開発機構、高知大学、東京大学、新潟大学、千葉工業大学らの研究グループによるもので、7月8日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
同研究グループは2013年に、岐阜県坂祝町の木曽川沿いに露出するチャートと呼ばれる岩石に挟まれた粘土岩から、三畳紀後期に直径3.3~7.8kmの巨大隕石が地球に衝突した証拠を発見しているが、落下した隕石が当時生息していた海洋生物の絶滅を引き起こしたかなど、地球環境変動への影響の実態は明らかになっていなかった。
そこで今回、同研究グループは、岐阜県坂祝町にみられる三畳紀後期のチャートから、大きさ1mm以下の放散虫とコノドント化石を酸処理抽出し、この時代を通じた化石群集の絶滅パターンについて検討。この結果、隕石衝突イベントの直後に、非常に高い割合で同化石群集が絶滅していることが明らかになった。
さらに、元素分析オンライン質量分析計(EA-IRMS)と、蛍光X線分析装置(XRF)を用いた化学分析により、同時代の海洋表層における植物プランクトンの生産量(基礎生産)と、動物プランクトンである放散虫の生産量の変動パターンについて詳しく検討した結果、食物連鎖の基底をなす基礎生産が、隕石衝突後の数万年間にわたり著しく低下し、それに伴い、動物プランクトンである放散虫の生産量も低下していたことが明らかになった。
放散虫の生産量の回復期間については、基礎生産が衝突以前のレベルに回復した後も、約30万年間にわたりもとのレベルには戻らなかったことが明らかになった。またこの30万年間に、隕石衝突イベント以前は存在しなかった新たな放散虫群集が出現し、衝突以前に生息していた古い放散虫群集は、ほとんどの種が絶滅へと追いやられていたことも明らかになっている。
これまでの研究では、隕石衝突が引き起こす生物大量絶滅の痕跡は、今から6600万年前の「白亜紀/古第三紀境界」境界からしか見つかっていなかったが、今回の研究で、それよりもはるか昔、2億1500万年前の隕石衝突が当時の海洋生態系の崩壊をもたらし、放散虫やコノドントの絶滅を引き起こしたことが明らかになったといえる。
同研究グループは今後、世界各地の三畳紀後期の地層から隕石衝突によって形成された地層を探索し、どのような生物がこの隕石衝突により絶滅の影響を受けたのかについて研究を進めていく予定であるとしている。