ビジネスメリットを理解したオーナーが新規参入

システム構成としては、ランドリー機器をデータコントローラーと呼ばれる管理機器につなぎ、ブロードバンドルータを経由して、インターネットに接続する形だ。

通信は双方向で、機器のデータを収集するだけでなく、機器を遠隔から操作することもできる。ICカード発行機もネットワーク化されているため、ICカード発行機の機能を遠隔から一括管理することも可能だ。

IC+ITランドリーシステムの構成

オーナーは専用のWebサイトでランドリーを一元管理する。管理画面には、店舗内の様子が模式図で表示され、どの機器がどんな状態なのかを把握できるようになっている。ネットワークカメラを同じインターネット回線に接続し、店舗内をモニタリングすることもできる。

Webサイト上で利用できる機能としては、「機器稼働状況表示」「遠隔運転」「売上情報の集計」「ICカード発行機の管理」「料金・運転時間設定/ポイント設定」「顧客管理」「機器管理」などがある。

例えば、料金・運転時間設定/ポイント設定では、曜日別、時間帯別にポイント設定を変えたりするといった戦略的なキャンペーンを実施できる。また、顧客管理では、会員の氏名や電話番号、メールアドレスなどのユーザーが登録した情報を管理し、一人ひとりの状況に合わせた販促キャンペーンが可能だ。

こうしたアクアのITランドリーシステムの採用店舗は全国で約1000店舗を超える。大型機器を備えた店舗は地方に多いが、最近は、ビジネスメリットを理解したオーナーの新規参入が増えたことで、都心でもそうした店舗が増えてきたという。

「機器がインターネットにつながり、ICカードを通して顧客ともつながったことで、さまざまなビジネスの展開が可能になりました。最近では、不動産を持たないオーナーさんが新規ビジネスの1つとしてITランドリーシステムに取り組むケースも増えてきています。ITランドリーシステムの管理を含め、機器のメンテナンスや交換、清掃なども外部に任せる方もいらっしゃいます」(稲村氏)

都内に4000店舗以上あるともいわれるランドリーだが、ITランドリーシステムのような"IoT化"された店舗は10%にも満たない状況だ。伸びしろが大きいこともあり、市場は拡大中だという。アクアでも、法人による多店舗展開や、大型マンションなどと提携したランドリーサービスの展開などを積極的に手がけているところだ。

IoTビジネスに欠かせないのはユーザーのニーズ

IoT活用の成功事例とも言えるアクアのITランドリーシステムだが、当初から、今のような状況を予測できていたわけではない。特に、2006年のシステム発売当初の販売は散々たるもので、プロジェクトは頓挫する寸前まで行ったという。

「インターネットに機器をつないで管理できるというだけではダメだったんですね。ユーザーもオーナーもそれによってどんなメリットがあるかわからなかった。結果、ほとんど売れませんでした」(井筒氏)

そこで取り組んだのが、ニーズがどこにあるかを地道に探り、それに応えるような機能を作り続けることだ。まず、システムの価格が導入の障害になっていたため、経営判断で、システムキットを一時的に導入キャンペーンとして無料にした。オーナーがメリットに感じる機能が不足していたため、新しい機能を開発した。こうした取り組みを続けることで、少しずつ販売が拡大していったという。

売上の分析や顧客管理の機能など、現在提供している機能のほとんどは、オーナーのニーズにこたえて、少しずつ改修した。オーナーが利用するなかで、新たな活用方法を教えてもらうことも多かったという。

「ICカードの100%ポイント還元もその1つです。システム設計時点では、無料でポイントを配るという発想がなく、100%という数値の入力自体ができないようになっていました。オーナーさんのアイデアや発想は、われわれの想定を越えていきます。それがビジネスのおもしろさとも言えます。ビジネスのニーズにこたえられようにシステムのブラッシュアップを続けてきた。それが今の実績につながっていると感じています」(井筒氏)

IoTへの取り組みはますます活発化している。中には、メリットを見いだしにくいサービスもある。ユーザーのニーズにいかに誠実にこたえ続けられるかは1つの試金石になると言えそうだ。