IoTサービスを10年以上提供し続けてきた実績
「コインランドリーをインターネットにつなぐことでユーザーにもオーナーにも多くのメリットが生まれる」── 今のIoTにもつながるそんな取り組みを10年以上にわたって続けてきたメーカーがアクアだ。旧三洋電機時代の1990年台後半から取り組みを始め、2005年に「ITランドリーシステム」を発表した。
このシステムを使うと、ランドリーのユーザーはPCやモバイルを使ってランドリーに空きがあるかどうか、洗濯や乾燥が終わったかどうかなどをリアルタイムに確認することができる。一方、ランドリーのオーナーは、PCやモバイルを使ってランドリーの日々の稼働状況や売上状況を確認することができる。自宅にいながら店舗の状況を把握するだけではなく、機器の異常を見つけたり、ユーザー向けにポイントを使った販促キャンペーンを打ったりすることも可能だ。
コインランドリーというと、家庭用洗濯機が置けない住宅の住民向けに屋外店舗で洗濯機や乾燥機を貸し出すというビジネスが思い出される。利用者は主に学生や単身者で、どちらかと言えば「暗い」「汚い」「狭い」といったイメージもある。だが、この数年、大規模店舗を中心に、従来のこうしたランドリーを取り巻く状況が大きく変化している。その変化の"渦"の中心にいるのがITランドリーシステムだ。
アクアの営業本部コマーシャルランドリーグループ ディレクターの井筒信也氏はこう話す。
「大型店舗には、大型でパワーのある業務用の洗濯機と乾燥機がそろっています。洗濯や乾燥時間が早いので、大量の洗濯物を一度に洗うことができます。家庭用の洗濯機では難しい、毛布やカーテン、靴などの丸洗いも可能です。高温の乾燥機を使うことでふとんやソファカバーなどのダニ退治もできます。そうした価値が少しずつ認められ、ランドリーの使い方が変わってきたのです」
家庭用の洗濯乾燥機でまとまった量を乾燥まで行う場合、何回かに分ける必要があり、乾燥まで入れると丸一日かかることもある。大型洗濯乾燥機のあるランドリーの大型店に持ち込めばそれが1時間もあればすべて済んでしまう。また、靴の丸洗いや毛布やふとんの高温乾燥によるダニ退治や脱臭、消臭などは業務用の洗濯乾燥機でなければそもそもできない。そうした中、家庭用洗濯機とランドリーとをうまく使い分けるユーザーが増えてきたのだ。
ユーザーの利便性を大きく向上させているのがITランドリーシステムだ。スマートフォンなどから稼働状況を確認できるので、いつ持ち込めばいいか、いつ終わったかを知ることができる。このため、時間を効率よく使うことができる。ICカード方式を採用している点もメリットだ。キャッシュレスであるため、コインを持ち歩く必要も両替する必要もない。ポイントシステムを使って、従来より安くランドリーを利用することができる。
「10年前に作ったシステムですが、ユーザーやオーナーさんの意見を聞きながら機能をブラッシュアップさせてきたので、使いやすいシステムに仕上がってきました」(井筒氏)
ランドリー経営は"待ち"から"攻め"に変わった
今回、アクアのITランドリーシステムを採用する都内の洗濯乾燥機のある大型店舗を取材した。店内は明るく、清潔感がある。ネットワークカメラでの常時モニタリングが行われているため、安心感もある。洗濯機、乾燥機、洗濯乾燥機が運転を続けているが、機器の前で洗濯や乾燥が終わるのを長時間待っているような利用者はいない。サッと来てサッと帰る様子からは、ランドリーを使いこなしている印象を受ける。
布団も洗える洗濯乾燥機。羽毛布団をこの洗濯乾燥機にかけた後、仕上げに大型洗濯機にかけると1.5倍ほどにも膨らむそうだ |
洗濯乾燥機が赤、乾燥機は黄色と一目でわかるようになっている。布団や毛布は乾燥機をかけるだけでもダニ退治に有効とのこと |
オーナーのメリットも大きい。オーナーは、機器の稼働状況や売上状況を自宅のPCやスマートフォンなどで確認することができる。例えば、料金設定を変更したり、トラブルが発生した機器を遠隔からリセットしたりできる。売上情報は、機械ごと、店舗ごとのデータを日、月、年別に集計して、グラフで確認でき、経営分析に役立てることが可能だ。
インターネットに接続していないコインランドリーでは、機器が故障した場合、利用者から電話がかかってくるまでわからないことが多かった。また、電話があっても、現地に赴いて確認する必要があった。売上も現金を回収して初めて把握できた。ITランドリーシステムはこうしたコインランドリーの管理のあり方を一新したのだ。
さらに大きなポイントがICカードだ。ICチップには顧客IDが登録されている。これを使うことで、終了案内のメールを送ったり、利用状況を把握して販促のキャンペーン情報を送ったりできるようになった。
アクアの営業本部コマーシャルランドリーグループ東日本営業所 所長の稲村克彦氏はこう話す。
「コインランドリーはこれまで利用客が来るのを待つというスタンスのビジネスでした。ICカードを利用すると、単に待つのではなく、積極的に顧客を獲得したり、リピート顧客を育成したりといった施策を打つことができるようになります。実際、オーナーの方はさまざまなアイデアを実行に移してビジネスを広げています」(稲村氏)
その1つにポイントを使ったキャッシュバックキャンペーンがある。ITランドリーシステムでは、価格やポイントを自由に設定できる。例えば、閑散期に価格を下げたり、新規出店時に付与ポイントを2倍にして来店を促したりといった施策をオーナーの判断で自由に実施できる。
そこで、あるオーナーは100%ポイント還元キャンペーンを期間限定で実施した。100円を利用した場合に100円分のポイントを付与するもので、オーナーに実質的な儲けはない。目的は、ICカードとポイントのメリットを理解してもらうこと、機器を使うことで操作方法や大型ランドリーの魅力を知ってもらうことだ。実際、この施策により、新たなリピーター顧客の獲得につながったという。
またあるオーナーは、新規出店時に500円分のポイントをチャージしたICカードを見込み顧客に配布した。見込み顧客は、保育園に子どもを送迎している父母たちだ。店舗内に設置された券売機で割引を告知するだけでなく、ランドリーに訪れたことのない新しい顧客にもカードという媒体を通してアプローチしたわけだ。
このように、顧客の利用状況や季節要因、周辺の環境などを考慮しながら、戦略的な仕掛けを積極的に打っていくことができるようになったのだ。