ベルギーの独立系半導体ナノエレクトロニクス研究機関であるimecは、2015年事業年度(暦年)の総収入が前年比14%増となる4億1500億ユーロ(約520億円、1ユーロ=125円で計算)となったと発表した。

2015年末時点の従業員数は2417名で、2014年末から230名の増加となった。研究員の国籍は73カ国に及び、真に国際的な研究機関になっている。世界半導体産業がわずかとはいえマイナス成長する中で、2ケタ成長を達成できたのは、「継続的な技術革新への取り組み」、「研究パートナーを満足させるに足る研究成果」、「グローバルな規模の戦略的提携」の3点によるところが大きいとimecでは分析している。

imecの総収入には、産業界のパートナーや世界中の大学から得た研究開発契約金、ASICおよびシステム設計による収入、中小企業や大学向け少量生産ファウンドリサービス収入、欧州のいくつかの研究支援機関からの研究受託収入、ベルギー国フランダース地方政府からの年次補助金(4770万ユーロ)、オランダ政府からの年次補助金(275万ユーロ)を含んでいる。imecはオランダの応用科学研究機構(TNO:オランダ議会が設立した公的研究機関) と共同で10年前に、オープンイノベーションを旨とするナノエレクトロニクス研究所「Holst Centre」をオランダEindhovenのPhilips中央研究所跡地に建設したが、そのために、オランダ政府からTNOを通してimecに対して補助金の提供が行われている。

総収入に占める政府(フランダース+オランダ)補助金の割合は12%である。なお、ベルギーは地方分権が徹底しており、産業振興は地方政府の権限になっているため国からの補助金は出ていない。

2015年、imecは経済的成長に加えて、世界中の企業と提携し成果を上げた。とくに、米国メリーランド州バルティモアのJohn Hopkins大学医学部・附属病院とは、血液検査用使い捨て半導体チップの共同開発・実用化に成功した。

imecは2015年、998件の科学技術論文を発表し、180件の特許を取得したほか、imecの研究者たちは、国際学会雑誌や会議で23に及ぶベストペーパーアワード(最良論文賞)などの表彰を受けている。

imec社長兼CEOのLuc Van den hove氏は2015年を振り返り、「素晴らしい年となった。今後も、世界中のパートナーと協力し合って、スマートシティ、スマートヘルス、スマートグリッド、スマートモバイル、スマート製造、そしてスマートエブリシング(すべてのモノのインターネット)の分野で、持続可能な解を見出すための技術的チャレンジに立ち向かっていく。imecは、2016年2月にフランダースのデジタル研究・インキュベーションセンターiMinds(研究者約1000名)と経営統合したので、シナジー効果を発揮して今後さらに大きく成長していくと確信している」と述べている。

ところで、日本では昨年度末までに、日の丸半導体産業を復権させる目的で1994年に設立された「半導体産業研究所(SIRIJ)」、1996年に設立された「半導体理工学研究センター(ATARC)」が相次いで解散し、EUVL基盤開発センター(EIDEC)が主導する国家プロジェクトも終了してしまった。結局、日本では、20年以上におよぶ半導体コンソーシアムや国家プロジェクト活動がことごとく産業復権には役に立たずに消えていった。それとは対照的に、ベルギーの一地方の研究所だったimecがいまやIntel、Samsungはじめ世界中の多数の主要企業から研究契約を獲得し、研究者が世界中から殺到する世界最高最大の半導体ナノエレクトロニクス研究機関にのし上がった。今後、日本勢は無反省に屋上屋を重ねることなく、1984年の創立以来、地道な努力を続けるimecの成功の秘訣を真摯に学ぶべきだろう。

図 imecタワー。imecの本部管理棟 (出所:imec, 2015年5月)