VRを活用した「ストリートビューの進化版」の登場も近い!?

シンポジウムが開催された日本科学未来館1階 シンボルゾーンの真上には、宇宙空間に輝く地球の姿をリアルに映し出す「ジオ・コスモス」が浮かぶ

ここからは、それぞれの登壇者が「10年後の未来がどうなっているか」を語る時間だ。吉田氏は「10年と言わず近い将来に実現しそうなもの」として、ある場所で全方向に300枚程度の写真を撮影した視差データからその場所を立体的なCGで再現し、ヘッドマウントディスプレイを装着して、その中を自由に動き回ることができる、VRを活用したGoogleストリートビューの進化版のような技術を紹介。世界中のスマホユーザーが撮影した写真データをGoogleがデジタル化し、ユーザーが世界中のさまざま場所に疑似的に移動して、その場所を動き回れるようなVR体験を実現できるそうだ。

次に、水口氏は「好きな時に好きな場所で好きなことをやっていられる未来」を予想した。同氏は"量子化"というキーワードに着目しており、20年後には「インターネットのおかげで量子化の時代になった」と実感できるのではないかと語る。通貨の転送経路などを可視化できる「ブロックチェーン」のようなものを例に挙げ、このようなものが進化してVRと融合すると、面白い未来になると語った。

また、石黒氏は未来のVRについて「ヘットマウントディスプレイではない次世代のものが出てくる」と予想しながらも、「やはり人間はストーリーがすべて。何か行動をしないと自分のストーリーにはならない」と断言。これは実際に行動しないと経験にならないという意味ではなく、「無理を無理と思わない世界」、「無理をすることなく、VRでの体験が自分の経験(ストーリー)になるようなもの」の登場を願っていた。

VRは、普段できないことを体験できるツール

ここからは、このイベントに参加した子どもたちから寄せられた質問に、登壇者がひとりずつ答えるコーナー。最初に吉田氏への「VR依存症の心配はないでしょうか?」という、子どもらしからぬ質問が読み上げられ、会場の笑いを誘った。吉田氏が質問した少年に「VR依存症が心配ですか?」と尋ねると、少年は「周りの人がゲームに依存している」という。吉田氏は「VRは普段出来ないことを体験したり、あまり行けない場所にも行ったりできるので、"普段の生活より楽しい"と思う人がいっぱい出てくるでしょう。そうなると依存症は起こり得ると思いますが、やり過ぎは良くないので、そういった人がいたら注意してあげて下さい」と回答した。「逆に、依存症をなくすためにはどうしたらいいと思いますか?」との問いかけに対し、少年は「学校で教育すればいい」と即答し、再び会場に笑い声が響いた。

「VR依存症」を心配する少年に、吉田氏も苦笑い

次に、水口氏への「どうしてゲームを作るのですか?」という質問。水口氏は苦笑いしたあと、「ものを作って表現したいというクリエイターとしての純粋な気持ちです」と回答。「映画や音楽などは"ある程度完成されたもの"であるのに対し、ゲームは"完成されておらず常に進化し続けているもの"なので、技術の進化に応じて常に新しい体験をデザインできる」とし、「それを日本のみならず、世界中の人に届けられるのがたまらなく楽しいから」と説明した。さらに「ゲームには映像や音楽、体験、さらにはキャラクターやストーリーなども含まれていて、クリエイティブを発揮できるものとしては最高峰だと思います」と語った。

最後は、「リアルとバーチャルの境界はどこでしょうか? 人間とアンドロイドの境界は?」という石黒氏への質問。この疑問を投げかけた少年が「アンドロイドや仮想世界は現実の人間や現実世界にはなりきれないと思います。なぜなら古代から受け継がれている血脈やスポーツ選手の決意、芸術家の彫刻などは少しずつ作り上げられるものなのだから」と述べ、「リアルとバーチャルの境界が存在する」という自らの考えを明かすと、石黒氏は「映画を観て、どこがCGでどこが実写か判別できますか?」と答え、「VRの技術が"人間の感覚"に追いついてきて、その境界が曖昧になってきている」と語った。さらに「お酒を飲んだり年老いたりすると、何がリアルで何がバーチャルなのかわからなくなるんですよ」とつぶやき、来場者を笑わせた。

モデレーターを努めた日本科学未来館 展示企画開発課の内田まほろ氏

トークの最後は、登壇者の「今後期待していること」について、ひと言ずつコメントした。水口氏は子どもたちに向けて、「ゲームでもアンドロイドでもいいから、何かものを作ったり表現したりすることに積極的になって欲しい」と伝えた。また、石黒氏は「プレイすればするほど思い入れが強くなり、自分のストーリーを見つけられるようなVRを作ってほしい」と、吉田氏と水口氏に対して懇願した。そして吉田氏は「人が色んな経験をするには時間やお金が掛かるが、VRを使うとさまざまな経験ができるようになり、それが楽しい世界や人の気持ちが理解できる優しい世界になっていきます。皆さんもぜひVRの世界を体験してください」と各々の思いを伝え、トークを締めくくった。

日本科学未来館 外観(夜景)