オートデスクは4月6日、3D CAD「Autodesk Inventor」をはじめとする製造業向けアプリケーションの最新バージョンを発表した。本稿では、同日に開催された発表会の中で語られた同社の製造業向け事業方針について紹介する。新製品の内容についてはこちらの記事を参照されたい。

ジェネレーティブ・デザイン、3Dプリンタ開発、IoTを用いた故障予見に注力

同発表会に登壇した同社のインダストリ ストラテジー&マーケティング ビジネス開発マネージャー 宮岡鉄哉氏は冒頭、近年製造業において「今までにない大きな変化」が起きているとし、3Dプリンタなど新技術の活用やアイデアのコラボレーションを前提とした開発が求められていると指摘。また、スマートフォンなどで行われているソフトウェアのアップデートが産業機械でも可能になり、運用していくに従って新たな機能やサービスを活用することができるようになるとした。

インダストリ ストラテジー&マーケティング ビジネス開発マネージャー 宮岡鉄哉氏

さらに、ユーザーに合わせた製品開発を可能とするために、製品の開発・製造プロセスにもさらなる柔軟性が必要だとし、アディティブマニュファクチャリング(積層造形)がそのカギとなる技術の1つだとの見解を示した。また、製品がスマート化することで、製品からのフィードバックを取り入れることによりハードウェアにおいてもアジャイル開発が可能になるとした。

これらを実現するためオートデスクは今後、ジェネレーティブ・デザインなどの設計技術や3Dプリンタの開発、IoTを活用した故障予見、それらの基盤となるクラウドの4分野に注力していくという。

また、製品の開発方針という点では、同社は世界中のユーザーから新機能のリクエストをWebサイト「Idea Station」で受け付けており、Inventorの最新バージョンでは57の新機能がユーザーからの要望により実現するなど、ユーザーの声を製品開発の重要な指針の1つとしている。「Idea Station」は日本語にも対応しているので、今後追加して欲しい機能があるオートデスク製品ユーザーはリクエストを同Webサイトに投稿してみてほしい。

オートデスクが注力していく4分野

構造/形状をコンピューターが設計

さて、宮岡氏が挙げた注力分野の中で特に注目したいのはジェネレーティブ・デザインだ。これは、耐久性や重量などの要件に基づいてコンピューターが最適な構造・形状設計を行う技術で、人間では思いつかないような複雑な形状を生み出すことができる。従来の製造手法では造形が困難な場合であっても3Dプリンタであれば対応可能だ。

オートデスクは、ジェネレーティブ・デザインを「Autodesk Inventor 2016 R2」から採用。すでに、エアバスがオートデスクの協力のもとジェネレーティブ・デザインを取り入れて航空機のキャビン用パーテーションを開発し、45%の軽量化を実現したほか、スポーツウェアブランドのUNDER ARMOURがスニーカーのヒール部分を設計するなど、具体的な導入例も出始めている。

ジェネレーティブ・デザインを活用してデザインされたキャビン用パーテーションのサンプル。非常に複雑な構造となっている。実際のプロジェクトでは新しい素材を開発したが、こちらはアルミ製とのこと。

今後が大いに注目されるジェネレーティブ・デザインだが、3Dプリンタを使用しなければコンピューターが編み出した形状を実現できないことが本格的な活用に向けた障害の1つとなる。全てのユーザーが産業用3Dプリンタを持っているわけではないからだ。そこで、最新バージョン「Autodesk Inventor 2017」ではジェネレーティブ・デザインを利用した設計データを参考にしながらソリッドモデルを編集できる機能を搭載することで、切削加工の生産プロセスでもジェネレーティブ・デザインを活用できるようにしている。

ジェネレーティブ・デザインは、設計作業を効率化するだけでなく、今まで見たこともないような革新的な製品を生み出す可能性も秘めるだけに、従来のワークフローの中にいかに違和感なく取り込んでいくかは普及の上で非常に重要となる。その課題に積極的に取り組むオートデスクのジェネレーティブ・デザインが今後どのような展開を見せるのか、注目していきたい。