京都大学(京大)は3月8日、フラーレンの一種であるC70の内部に水分子を閉じ込めることに成功したと発表した。
同成果は、京都大学 化学研究所 村田靖次郎 教授らの研究グループによるもので、3月7日付けの英科学誌「Nature Chemistry」オンライン速報版に掲載された。
フラーレンC60では、すでに同研究グループが水単分子を内包させることに成功していたが、C70はC60よりも大きな内部空間を持つため、2個の水分子(二量体)を内包できる可能性があり、二量体の特性観測や内包水分子の運動観測を行うため、実現が期待されていた。
今回、同研究グループは、C70に水分子が通過できる程の大きさをもつ開口部を構築し、そこから水分子をC70内部に挿入して開口部をもとどおりに閉じることにより、水の単分子および水の二量体を閉じ込めることに成功した。
また、合成された小分子内包C70の性質を解析することにより、1個の水分子が内包された場合、水素結合のない状態である裸の水分子は、C70の内部で上下に素早く動いていることが明らかになった。一方、二量体が内包された場合では、2つの水分子間に水素結合が存在することがわかり、その水素結合は、切断と再生を素早く繰り返していることがわかった。
今回の成果により、原理的には、水分子と同程度のサイズであれば、さまざまな分子種をC70の内部に閉じ込めることが可能になる。ありふれた物質であっても、孤立した単分子状態を実現させることによって、新しい物性を解明できる可能性がある。また、内包された分子によって、C70の性質を変化させることも可能になるため、有機薄膜太陽電池の性能向上、生理活性素材の開発、生命現象を解明するためのプローブ分子への応用などが期待されるという。