神戸大学は2月26日、筋ジストロフィーの発症する新たな原因を発見したと発表した。
同成果は、同大学 医学研究科 戸田達史 教授、金川基 講師、小林千浩 准教授、東京都健康長寿医療センター 遠藤玉夫 副所長、大阪府立母子保健総合医療センター 和田芳直 研究所長らの研究グループによるもので、2月26日付けの米科学誌「Cell Reports」に掲載された。
筋ジストロフィーは、筋繊維の破壊や変性と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮や筋力低下が進行する遺伝性の疾患。国から難病指定を受けており、特に日本人に集中的に多い福山型筋ジストロフィーは、ほとんど歩行不能の重症となる。
これまでに、福山型筋ジストロフィーおよび類縁疾患の発症原因として、筋細胞表面にあるタンパク質「ジストログリカン」に結合している糖鎖に異常が起きること、「ISPD」「フクチン」「FKRP」といった原因遺伝子が正しく機能していないことは知られていたが、糖鎖の構造や遺伝子の働きは解明されていなかった。
今回、同研究グループは、培養細胞に生体と同じ糖鎖をつくらせることに成功し、糖ペプチド質量分析法を応用して糖鎖の成分ごとの質量を測定した。その結果、これまでバクテリアや一部の植物でしか確認されていなかった「リビトールリン酸」という糖が糖鎖の中に存在することを発見。さらに、これまで機能が不明だった筋ジストロフィーの原因遺伝子「ISPD」「フクチン」「FKRP」は、ヒトの体内でリビトールリン酸をつくる酵素であることがわかった。
実際に、筋ジストロフィーの原因遺伝子を欠損させた患者モデル細胞では、リビトールリン酸が欠損していたことから、リビトールリン酸の合成障害が病気の原因であることが明らかになった。また、リビトールリン酸をつくる材料となる「CDP-リビトール」を患者モデル細胞に投与すると、糖鎖の異常を解消できたという。
戸田教授は、今回の成果について「これまで原因不明だった筋ジストロフィーが発症する仕組みが明らかになったことで、治療法開発に拍車がかかる。また、リビトールリン酸が哺乳類でも確認されたことで、高等生物が細胞外環境の情報を得る手段やその進化の過程の解明にもつながるのでは」とコメントしている。