東京医科歯科大学再生医療研究センターの関矢一郎(せきや いちろう)教授らの研究グループは、ラットの膝関節に幹細胞を定期的に注射することで変形性膝関節症の進行を予防することに成功した、と発表した。この関節症に悩む患者は国内で約850万人、潜在患者は2,500万人とも言われ、今後さらに増えると予想されているが決定的な治療薬や治療法はまだない。研究グループは今後臨床研究を実施する予定で、患者での治療効果が確認されれば、高齢化社会を迎える中での朗報と言える。
幹細胞は、神経や皮膚など体をつくるさまざまな細胞になる能力を持つ細胞。同大学が15日公表した資料によると、研究グループは、ラットの膝に人工的措置を施して変形性膝関節症を発症するようにした。すると、何もしなかったラットは措置の約8週後に軟骨損傷と滑膜炎を起こした。一方、膝関節の滑膜から培養した幹細胞を定期的に注射したラットは、軟骨変化と滑膜炎の進行が抑えられていた。幹細胞を注射したラットでも回数が1回だけだと、炎症抑制効果は限定的だった。これらの結果から、滑膜幹細胞の定期的注射が有効であることが分かった。
研究グループはまた遺伝子の発現レベルの実験も実施。その結果、関節内注射した滑膜幹細胞は滑膜に生着した後も幹細胞の機能を維持したまま、軟骨保護や炎症抑制に関連する栄養因子を産生するメカニズムが明らかになった。このメカニズムによって幹細胞の定期注射が効果をもたらす、という。
変形性膝関節症は、加齢や筋力の低下などをきっかけに膝関節の軟骨や半月板がすり減ったり変形、断裂したりして炎症を起こす。症状の悪化により痛みも増す。40代以降増え始める患者は男性より女性に多く、高齢になるほど女性患者の割合が増える。重症になると正座や歩行が困難になり、やがて介護が必要になる。このため、関節症の治療研究はがんや認知症とともに高齢化社会医療の大きな課題になっている。現在ヒアルロン酸の関節内注射などによる治療法も実施されているが治療効果評価はまだ定まっていない。
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