Qualcommは、中国・北京において次世代ハイエンドSoC「Snapdragon 820」に関するイベントを開催した。11月に米ニューヨークで開催されたイベントと同じく、最新のSnapdragon 820に関する機能を解説するためのイベントで、アジア向けのイベントという位置づけとなっていた。

日本や韓国、インドネシアなどのアジアのメディア向けと中国、台湾メディア向けの2部制というSnapdragon 820のお披露目イベント

米QualcommでMarketing部門シニアバイスプレジデントを務めるTim McDonough氏

米QualcommでMarketing部門シニアバイスプレジデントを務めるTim McDonough氏は、2015年から2019年にかけて、8億5,000万台以上のスマートフォンが出荷され、その間の伸び率は53%に達するとの見込みで、今後もスマートフォン市場が拡大すると予測。Qualcommは1985年から30年間、通信向けの製品を開発し続けており、そのノウハウと技術をアピールする。

そのQualcommのチップセットを採用するメーカーは多い。スマートフォンを中心にSnapdragonのMSMチップを採用した製品は15年で9億3,200万台出荷されたという。それに続く次世代製品となるSnapdragon 820は、現時点で70以上の製品での採用が決まっている。11月にニューヨークでの発表の際には「60以上」という表現だったため、さらに採用が拡大していることが明らかにされた。

MSM採用製品は9億3,200万台に達した

次世代品であるSnapdragon 820を採用する製品は、現時点で70以上に

Snapdragon 820はいくつかのチップで構成されている。8月9日に発表されたGPUの「Adreno 530」、カメラ用ISPの「Spectra」、DPU、VPU。8月24日発表の「Hexagon 680 DSP」。8月31日にはセキュリティ機能の「Snapdragon Smart Protect」が発表され、そして9月1日には同社の64bit CPUとしては初めてのカスタムCPUである「Kryo」が登場。そして9月14日にはモデムチップの「Snapdragon X12 LTEモデム」が発表され、これらを統合したものがSnapdragon 820として提供される。

Snapdragon 820の構成。64bit CPUとして同社初のカスタムCPUであるKryoがハイエンド向けの820シリーズに採用されるなど、多くの新規製品が搭載されている

X12 LTEモデムは、下り最大600Mbps、上り最大150MbpsのCat.12/13をサポート。さらに無線LANと同じ2.4/5GHz帯の帯域を使うLTE-Uにも対応する。無線LANはマルチユーザーMIMOをサポートしたIEEE802.11acに加え、60GHz帯を使う新しい802.11adも利用できるようになる。

LTEと無線LANの併用時のユーザー体験を改善するために、音声を無線LAN経由で送受信するWi-Fi Calling、低消費電力の無線LANスポット機能、LTEと無線LANのアグリゲーションといった機能も備えている。

X12 LTEモデムの主要な機能

ハードウェアとしては前モデルに比べて、X12は33%以上の性能向上と15%以上の電力効率化、Kryo CPUは2倍の性能向上と2倍の電力効率化、Adreno 530は40%の性能向上と40%の電力効率化、Hexagon 680は3倍の性能向上と10倍の電力効率化を実現したとしており、これにさらに新たに「Haven Security Management」、「Zeroth」、「Symphony System Manager」、「Quick Charge 3.0」といった機能が盛り込まれており、プレミアム製品として高い性能と多機能な点を強調する。

それぞれのチップでパフォーマンスの大幅な向上を実現

電力消費の部分では、Snapdragon 801を「1」としたときに、820では「0.65」まで電力消費を削減。810まで0.92までしか下げられなかったが、一気に30%の削減となり、大幅な向上を果たした。

電力効率も大幅に向上した

このSnapdragon 820の開発では、特に3つの分野での機能が強化されたという。「画像の品質」、「オーディオの品質」、「直感的なインタラクション」の3点に注力したという。グラフィックスでは、Kryo CPUとAdreno 530による画像処理の向上では、ゲーム時のリアルタイムリフレクションの描画を紹介。高度な処理もリアルタイムで行える性能をアピールする。

リアルタイムにリフレクション効果を描画できるパフォーマンスを実現

写真関連機能では、低照度環境での写真やビデオの画質を向上させたという。さらに、コントラスト差の激しい被写体でも、見た目に近い形で撮影できるようになった。動体の撮影などではHDR機能が利用できないが、トーンマッピングによって暗部をだけを補正することで、さまざまなシーンで活用できる。

低照度環境での撮影やコントラスト差の大きい場面での撮影がより見た目に近く描写できるようになった。作例はHDRを使っているのではなく、暗部のみ露出が持ち上げられている

オーディオに関しては、「Snapdragon Audio」として、端末の2つのスピーカーを使った3Dサラウンド機能を搭載する。

端末のスピーカーでも3Dサラウンドを実現できる

インタラクティブ性では、例えば「インテリジェントカムコーダー」としてビデオ撮影時にタッチした被写体を認識してトラッキングする機能や、長年のディープラーニングの研究による成果である「Zeroth」によって、カメラを向けた状況を自動認識するシーン検出機能を実現している。

動画撮影中にタッチした場所の物体を認識して追尾する

Zerothによるシーン検出機能

McDonough氏は、Snapdragon 820の今後の展開として、ドローン、車載器、VRヘッドマウントディスプレイ、監視カメラといった分野をあげる。Snapdragon 820の全機能が搭載されるというよりも、それぞれの製品に必要な機能を搭載した820のバリエーションを提供する考えで、820ファミリを拡大させていきたい考えだ。

今後、820ファミリとして製品ラインを拡充していく