スピルリナを使った肥料でエチオピアの栄養不良を解決したい

蒲朋恵氏

高校2年生の蒲朋恵氏は、この夏、腰のあたりまであった長い髪の毛をばっさり切り、医療用のウィッグ製作用に髪の毛を寄付する「ヘアドネーション」を行ったという奉仕の精神あふれる心の持ち主だ。そんな蒲氏はエチオピアの食糧問題に着目した。

栄養不良は2種類に分けられる。生命維持に関わるエネルギー自体が不足しているものと、エネルギー源となる炭水化物は足りていても、ビタミン、ミネラル、タンパク質が不足しているというもの。後者では、身体や知能の発育に影響を及ぼし、病気にかかりやすくなるという問題がある。

エチオピアの5歳未満の子どもの栄養不良の割合は約50%といわれている。この原因について蒲氏は、作物の生産性が低く野菜の量が少ないためであると分析。高価な化学肥料ではなく堆肥などの安い肥料を用いることで、野菜の生産性を向上すればよいのではと考えた。

しかし堆肥には、肥料として必要な窒素・リン・カリウムのうち、窒素の量が少ないとされている。この窒素を補うため、蒲氏はエチオピアに自生する窒素分が豊富な藻「スピルリナ」に注目。実際にスピルリナを堆肥に混ぜ肥料として利用し、コマツナを育てる実験を行ったところ、堆肥にスピルリナを分施した際には、水を吸いにくいといった課題はあったが、化学肥料と同じ程度のコマツナの成長が見られたという。

コマツナの生育実験の結果

「農業は広くさまざまな分野に関わっていること、農業視点のみからでは栄養問題を解決するのは難しく、バイオテクノロジーが必要であることがわかった。この経験を今後の進路選択に生かしていきたい」(蒲氏)

水処理との付き合い方の調査研究

明田悠祐氏

2020年の東京オリンピックでは、お台場海浜公園にてトライアスロンが行われる予定となっている。しかし現状のお台場の海水浴場では2日しか遊泳が解禁されず、しかも顔付けは禁止。その水質が問題視されている。今回の参加者のうち唯一の大学生である明田悠祐氏は「下水道処理場があるのに、なぜお台場の海は汚れているのか」という疑問を持ち、今回の研究テーマを選んだ。

水の汚れを表す指数として、一定量の水を44.5℃で培養した際の大腸菌とそれに似た性質を持つ細菌の数である「糞便性大腸菌群数」と、水中の有機物を酸化させるのに必要な酸素量である「科学的酸素要求量(COD)」が知られている。お台場の海は日によって、これらの指数の基準値を大幅に超すことがあるという。

お台場海浜公園の水質について

明田氏は、下水の配管方式や海底に溜まったヘドロが水質汚染に影響していることを、東京都水道局などへの取材や文献調査で明らかにした。下水の配管方式には、生活排水と雨水が同じように処理される「合流式下水道」と、生活排水を処理センターで処理し、雨水は海へ流す「分流式下水道」の2つがあるが、古い設備である合流式は、大雨が降ると処理量が増えてしまい十分な処理を行えないまま放流してしまうという問題がある。

東京都23区では、2020年までに1400万m3の下水を貯蓄できる設備を整備するなどといった対策を打ち出しているが、明田氏はすでに横浜市で実験が行われているという「水中スクリーン」を用いて、汚濁水から物理的に競技会場を仕切ることを提案した。

腸内環境と健康の関係

服部真央氏

ここのところ「腸内細菌叢(腸内フローラ)」という言葉がテレビや新聞などをにぎわすようになった。我々の腸内には多くの細菌が住んでおり、その種類は約300種、数にして約100兆個にも及ぶとされている。腸内細菌叢とは、この膨大な数の腸内細菌の生態系のことを指す。腸内細菌叢は食物の消化を助けたり、栄養素を作ったりするほか、大腸がんや糖尿病などにも関わっているとされている。

高校2年生の服部真央氏は、新聞で腸内細菌叢の特集記事を読んだことで「薬に頼らずに腸から病気の予防ができれば」と感じ、今回の研究をスタート。研究者や大学生に混ざって学会へ参加し腸内細菌について情報収集をしたうえで、自身や家族の便を次世代シーケンサーで解析するという実験を行った。

実験では、1週間のあいだ服部氏の家族が肉、魚、納豆を主菜とした食事をそれぞれ取り、これにより腸内細菌叢に変化があるかどうかを調べたが、はっきりとした違いは見られなかった。これについて服部氏は「実験の実施期間が短かった可能性がある。また主菜だけ変えても腸内細菌叢に影響しないのでは」と考察。また、腸内細菌の構成が祖父母、母で類似していた結果から、長期に渡る生活習慣や食事内容が影響している可能性についても説明した。

家族に対して行った腸内細菌叢の実験内容

服部氏は発表の最後に「研究者の方に取材した際に、すぐに結論を求めてしまったり、テレビの情報を鵜呑みにしてしまっていたりすることを指摘され、自分で調べ考察する大切さを学んだ」と今回の研究経験を振り返った。

最優秀アンバサダーに選ばれたのは?

日本科学未来館 館長 毛利衛氏

今回の審査は「創造性」「研究の手法と構成」「プレゼンテーション」「社会への影響」の4つの軸を基準に行われた。この結果、最優秀アンバサダーには腸内環境の研究を行った服部氏が選ばれた。受賞理由について未来館館長の毛利衛氏は「ユニークな研究であると同時に、腸内細菌叢の重要性について自ら実験を行い、自分の仮定と異なり自然はもっと複雑であるということに気づいたこと。最先端の手法を取り入れたこと」がポイントであるとしている。

またこの結果を受けて服部氏は「群馬県から何回も通っていたので大変だったが、将来は研究職に就くことが夢だったので、とても貴重な体験になった」と感想を述べている。服部氏は最優秀アンバサダーとして、2017年に開催される世界科学館サミットの場でプレゼンテーションを行う予定となっている。未来館から生まれた若き科学者の卵に、ひきつづき期待したい。

表彰式の様子