中央大学は10月19日、イヌ用人工血液の開発に成功したと発表した。
同成果は同大学理工学部の小松晃之 教授の研究グループによるもので、第22回日本血液代替物学会年次大会で発表される予定。
日本では動物用血液バンクが認められておらず、動物用血液の備蓄システムが存在しない。輸血が必要な重症動物を治療する際は、獣医自身が自分で輸血液を入手しなければならずドナーの確保が課題となっている。そのため長期保存が可能で、血液型やウイルス感染のリスクがなく、必要時にいつでもどこでも使用できる動物用人工血液の開発が望まれていた。
これまで小松教授らは、ヒト用人工血液の開発において、血液の重要な役割である酸素輸送機能を代替できる赤血球代替物として、ヘモグロビンにヒト血清アルブミンを結合させたコアーシェル型のクラスターを合成し、それがヒト用人工酸素運搬体として機能することを明らかにしている。このクラスターをイヌ用人工酸素運搬体として応用する場合、異種アルブミンからなる製剤をイヌに投与すると抗体が産生され、再投与の際に重篤な副作用を起こす危険性があることから、ヒト血清アルブミンをイヌ血清アルブミンに置き換えなければならない。しかし、イヌ血清アルブミンはイヌの血液から精製しなければならないため、製造に十分な量を確保することができず、遺伝子工学的にイヌ血清アルブミンを産生する必要があった。
今回の研究では、遺伝子工学的に組換えイヌ血清アルブミンを産生。ウシ赤血球から精製したヘモグロビンを遺伝子組換えイヌ血清アルブミンで包み込んだ構造のクラスター(製剤名:ヘモアクト-C)を合成し、それがイヌ用人工酸素運搬体として機能することを明らかにした。ヘモアクト-Cの分子表面は遺伝子組換えイヌ血清アルブミンで覆われているため、イヌに投与しても副作用は無いという。また、原料はヘモグロビン、遺伝子組換えイヌ血清アルブミン、市販品の架橋剤のみで製造工程も少なく、特殊な装置を使用せずに合成することができるほか、単独でも人工血漿増量剤として使用することができるというメリットを持つ。
ヘモアクト-Cは赤血球代替物としてだけでなく、心不全・脳梗塞・呼吸不全などによる虚血部位への酸素供給液、体外循環回路の補填液、癌治療用増感剤などとしての使用も想定されており、同研究グループは動物医療の現場が抱える深刻な"輸血液確保"の問題を一気に解決する革新的発明であるとしている。