コミュニケーションのための身近なツールとして、今や切っても切り離せない「LINE」。中でも、会話の中で気軽に使える表現手段として、LINEスタンプは非常に身近なものとなった。

以前は企業配信のみだったLINEスタンプだが、個人で自作スタンプを制作・販売できるプラットフォーム「LINE Creators Market」が昨年から開始されたことにより、クリエイターの発表の場としても賑わっている。また、開設当初、そこから生まれたヒット作に対する高額な分配金が、世のクリエイターたちをLINEスタンプづくりへと駆り立てたのも間違いない。

今回お話を伺った、人気LINEスタンプの作者であるJellyFishDesignOffice氏(左)、Miho Kurosu氏(右)。Illustratorをメインツールとしてスタンプ制作を行っているという共通点がある

そんな経緯もあり、現在登録されているLINEスタンプの数は15万種類以上! プロもアマも同じ土俵に立つ、一攫千金のスタンプ戦国時代に突入した……のがちょうど昨年秋ごろ。筆者自身、一念発起してLINEスタンプを作ろうとしたものの、絵柄を必要な数だけ考えるのは想像以上に大変で挫折した経験がある。

そんな中、常に人気上位を維持し、本業と並行でLINEスタンプを制作し続け、確かな収益源としているクリエイターが存在している。今回は、「LINEスタンプ制作にIllustratorを使っている」という共通点を持つ人気スタンプクリエイター・Miho Kurosu氏とJellyFishDesignOffice氏のお二人に、LINEスタンプ制作に関してのアドバイスやヒットスタンプ作成の秘訣を聞いていく。

前回は6000以上の「ネタ出し」をこなしてきたJellyFishDesignOffice氏の「制作のコツ」を聞いたが、今回は、「イラストはスタンプ制作をはじめるにあたって勉強した」というMiho Kurosu氏にお話を伺った。

自作のスタンプ「敬語くまさん」がヒットしたことについて、「部活の先輩、会社のグループラインなど、敬語を使う中でも親しみやすい使い方ができるからかもしれません」とKurosu氏

Miho Kurosu氏

Miho Kurosu氏(以下Kurosu氏)は、2頭身のねこやうさぎなど、かわいい動物のキャラスタンプが人気のクリエイター。現在販売しているスタンプの数は全部で15種類。「了解しました」「ありがとうございます」など、敬語のセリフが添えられたかわいいクマのスタンプ「敬語くまさん」というシリーズが人気だ。

――普段のお仕事について教えてください

旅行のチラシやフライヤーなどをつくる広告デザイナーをしています。今年の1月に独立したばかりです。

――本業があるなかで、スタンプ制作を始めたきっかけは?

「LINE Creators Market」が発表された時に、絶対やりたい!と思ったからです。もともとLINEスタンプが大好きで、自分でもたくさん買って使っていたんです。それで自分でも作れるなら作ってみよう!と。

(イラストについては)完全に素人だったので、イラストの書き方の本を買って読んでペンタブレットもこのときはじめて買いました。5月にスタートしたんですけど、すごく練習して…ようやくという感じで。結局あれこれ準備や制作に時間がかかって、10月にようやく初リリースしました。

――スタンプが1セット40種ですが作成のプロセスなどを教えてください

まず、40個すべてのセリフを決めます。そしてそこにひとつずつセリフに合わせた絵を描いていきます。完成したものを並べていく瞬間が一番たのしいですね(笑)

「おつかれさま」「ありがとう」「了解」「おっけー!」など定番のものは必ずどのシリーズにも入れるようにしていますが、40種類のうち半分は定番、残りの20個は比較的自由に変わったものも入れたりしています。全て完成したタイミングで使用頻度の多いものを上の方にもってきたり、販売ページに表示される際の色のバランスを見て、並べ替えたりして完成。審査に出します。

キャラクターは、やはりネコとかクマとか王道といえば王道のものが人気みたいです。ブタのスタンプも作ってみたんですけれど、全然ダメですね(笑)。個人的には気に入っているんですけど…。

――JellyFishさんは審査でリジェクトされた際に工夫して通過を狙う手段を語っていましたが、Kurosuさんはリジェクトを受けた時どうしていますか?

いまのところ、リジェクトされたことはないですね。

かわいいキャラときわどい表現の合わせ技で人気を博すJellyFish氏。一方、Kurosu氏のスタンプはなるほど、審査員も笑顔でOKしそうな「優等生」的でかわいいものだ。

Kurosu氏は現在、本業の傍ら2~3週間にひとつくらいのペースで新作を制作しているという。文字はまとめて全て考え、デザイン自体は夜間のリラックスタイムに楽しみながらひとつずつ完成させていくそうだ。

Illustratorでスタンプ作りを始めた理由は?

MacBook Airと液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」で作成しているというKurosu氏。アプリケーションは、Illustratorのみで完結しているという。

「手描きをスキャンしてから、Photoshopなどのソフトで加工するという流れよりも、圧倒的に効率がいいですね」とKurosu氏。顔や体、目・鼻・口など、一度パーツとして作ってしまえば複製し、組み合わせて使えるというのは、JellyFish氏と同様の意見だ。

最終的に全てのスタンプを並べてみた時のバランスなどをみて、色を簡単に変えられるのも魅力という。また、Kurosu氏もアドビのIllustrator用LINEスタンプフォーマットを絶賛。枠に入れてデザインしていくと、LINEに申請する形式に変換する作業も一瞬で終わり、飛躍的に制作速度が上がりそうだとコメントした。

最初にキャラクターの基本となる正面と横、後を作ってそれを部品としてうまく使っていく。耳の位置だけでキャラクターのかわいさは大きく変わるそう

LINEスタンプ用のaiファイルは無料でダウンロードできる※クリックすると直接ダウンロードされる

しかし、これだけコンスタントにLINEスタンプを作っていたら、「仕事モード」にならないものだろうか。そう尋ねると、Kurosu氏は「本業の広告デザインはクライアントがいて、要望通りに作らなくてはなりません。ですが、LINEスタンプは最初から最後まで自分の好きなように作れるので、自分らしさをだせる場所だと感じています」と語った。

「スタンプを作るのが楽しくてしょうがない」というKurosu氏。クリエイターの周りにはクリエイターが集うもので、絵の巧拙を見ればキリがない。実際、自分の腕前を理由に挫折したという人もいるかもしれないが、好きだ、楽しいという気持ちで続けることで道は開けるのだと思わされた。

次回は、両名が交わしたトークの内容から、LINEスタンプ制作の最前線の状況や、気になる売り上げについて迫っていく。こうご期待。