2015年10月10日から注目の連続ドラマが始まる。女優・有村架純さん主演の「海に降る」(WOWOW)だ。深海の科学研究を題材にした朱野帰子さんの同名小説を連続ドラマ化したもので、有村さんは有人潜水調査船「しんかい6500」の日本人初の女性パイロットを演じる。
なぜ注目なのかと言えば、実際に「しんかい6500」を開発・運用し、25年以上にわたり世界の有人深海探査をリードしてきたJAMSTEC(海洋研究開発機構)が取材・撮影などに全面的に協力、深海の世界や最先端の海洋科学技術を「圧倒的リアリティ」で描いているから。たとえば4月には沖縄近海の水深1500mの深海底への潜航調査に山本剛義監督が同行。「しんかい6500」内部や調査の様子など、ドラマ全編を4K画質で収録している。
深海探査と言えばジェームズ・キャメロン監督がマリアナ海溝に潜航しているが、それに次ぐ快挙。日本の監督ではもちろん初めてだ。7月31日にJAMSTECで行われた記者会見で山本監督は「しんかい6500で人が乗りこむ耐圧殻(たいあつかく)は大の男3人が乗ると身動きできないぐらい狭い空間。それが閉まった瞬間に息苦しさを感じ、冷や汗が止まらなくなった。ところが水深1500mまで潜ると落ち着き、音のない神秘的な深海の世界に『神々しさ』を感じた」と深海探査の過酷さとそれを上回る魅力を語る。
有村さんは陸揚げされた「しんかい6500」に実際に入った。「圧迫感や閉鎖感、主人公の深雪(みゆき)が感じた怖さを感じた」と率直な印象に語り、演じる際に難しかったのは「スイッチ類など専門用語が多かった。(深海生物などをつかむ)マニピュレーターの操作方法を教えてもらいながらやっていった」点をあげた。有村さんの演技指導を行ったのは「しんかい6500」のパイロットであり、JEMSTEC探査機運用グループグループリーダーの吉梅剛さん。「パイロットが使う言葉は専門用語が多いし、号令など特別な言い回しがある。『いけるのかな?』と最初心配していたがスムーズで驚いた」と太鼓判を押す。
パイロットたちが乗り込む「耐圧殻」は内径2mの球形だが、撮影用のセットは実際の1.5倍ぐらいの広さのものを作った。「細かいディテールまで実際とほとんど同じ作りになっている」と吉梅さんも驚く仕上がり。さらに「深く潜るにつれて窓から見える海の色が暗くなっていくところや、雪のように降るマリンスノーなど、(何百回も潜った)我々が見ても本物に近い。ぜひ細かいところに注目してほしい」(吉梅さん)。深海の映像美に期待が高まる。
JAMSTEC広報部によれば潜水訓練プールや「しんかい6500」整備場、工学実験棟や生物研究室などJAMSTECの施設を撮影場所として提供し、職員もエキストラとして出演。パイロットなどのセリフや仕草、立ち振る舞いに至るまで、付きっきりで協力したそうだ。普段なかなか見ることができない深海探査の現実をたっぷり味わえるに違いない。
ちなみに有村さんは女性初のパイロットを役作りする際、「自分が女だと意識するのは止めた、メイクもせず、髪の毛も整えなかった」という。JAMSTECには実際に女性パイロットが活躍しているが、しんかい6500に乗るときは化粧禁止だそう。化粧品に含まれる成分によって引火する恐れがあるというのがその理由だ。
水深200mより深い海を深海と呼び、海の95%を占める。水深約200mに届く太陽の光は海面の0.1%、水深1,000m前後では100兆分の1程度になるという。その暗黒の世界に挑む深海探査に光を当てるドラマは前代未聞。「見たことのない壮大な映像になっている」とプロデューサーの岡野真紀子氏。その壮大な探査に挑戦するのは身近な人間だ。彼らがどんな葛藤や恐怖と向き合い、乗り越えていくのか、その過程にリアリティがあるほど、感情移入できる。深海探査の臨場感を味わうのが、今から楽しみでたまらない。