ベルギーの半導体・エレクトロニクス研究機関imecは、2015年7月中旬、米国カリフォルニア州San Franciscoで開催された半導体製造装置・材料展示会「SEMICON WEST」の期間中に会場に隣接したホテルで「将来のスマートリビングのための材料とデバイスのイノベーション」をメインテーマに「imec Technology Forum(ITF)2015 USA」を開催し、その中で、スマートリビングの実現をめざして、オランダのエレクトロニクス応用研究機関Holst Centreと協業し、薄膜エレクトロニクスのIoTへの応用に力を入れていくことを明らかにした。

Holst Centreはimecとオランダ応用科学研究機構(TNO:オランダ議会が設立した独立法人)との共同出資によりオランダEindhovenに設立したエレクトロニクス応用研究機関である。

図1 imecの薄膜エレクトロニクス プロジェクト・マネージャーのAlexander Mityashin氏(以下の画像はすべてimec提供)

開発中の材料やデバイス紹介に力点を置いた米国版ITFでは、同社薄膜エレクトロニクス・プロジェクトマネージャーのAlexander Mityashin氏(図1)らが登壇し、薄膜デバイス研究の最新状況を紹介した。

imecはHolst Centreと共同で、人にやさしいIoTの実現に向けて、センサ端末やRFチップの開発をおこなっているが、人の意識せぬうちに健康状態や人を取り巻く環境の状態をセンシングし、その情報をインターネットに載せるには、薄膜エレクトロニクスを総動員してフレキシブルでウェアラブルな廉価な極薄デバイスを製作する必要がある(図2)。

図2 シリコン基板を用いたICと薄膜トランジスタ(TFT)を用いたICの特徴比較。TFTはシリコンより、薄く、フレキシブルで、性能は落ちるが、廉価

imecでは、フレキシブル薄膜エレクトロニクスをIoTはじめ多方面に応用する研究開発に取り組んでいる。今年春のISSCCでは、IGZO TFTを用いた、13.56MHz帯で動作するフレキシブルNFC(近距離無線通信)タグを発表した(図3)。金属酸化物半導体をn型TFTに、有機半導体をp型TFTに用いた、8ビット薄膜CMOSマイクロプロセッサはすでに2014年に開発し、Natureに発表している(図4)。インクジェット印刷を用いたプログラムメモリ回路を搭載している。

図3 IGZO TFTを用いた、13.56MHz帯で動作するフレキシブルNFC(近距離無線通信)タグ

図4 8ビット薄膜CMOSマイクロプロセッサ。インクジェット印刷を用いたプログラムメモリ回路を搭載している

食品の鮮度を監視し、その状態を表示をするスマート・フレッシュ・ラベルも、欧州の関係諸団体の協力を得て実証実験を行っている(図5)。使い捨て薄膜体温測定パッチ(図6)はじめヘルスケア分野にもフレキシブル薄膜エレクトロニクスを応用している。

図5 スマート・フレッシュ・レベル。肉の鮮度、温度、加工後経過時間、賞味可否などが表示されている

図6 使い捨て薄膜体温測定パッチ