GTC 2015 - スタートアップの興味深い展示の関連記事

【レポート】GTC 2015 - Deep Learningを理解する(前編)
【レポート】GTC 2015 - Deep Learningを理解する(中編)
【レポート】GTC 2015 - Deep Learningを理解する(後編)
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今年のGTCではスタートアップの会社の展示コーナーが設けられ、20社程度が出展していた。その中で興味深かった展示を紹介する。

In Silico Medicine Inc

同社は、遺伝子、がんや加齢による細胞の変化のデータベースを持ち、薬が与えられると、それがどのように細胞に影響を与えるかをシミュレートする「Pathway Cloud」を構築している。これで、個々の患者に複数の薬を与えたときに、それらがどの細胞にどういう風に働くかをシミュレートできるという。

既存の薬でも、複数の薬を与えた時の振舞いは独立ではなく、詳細にシミュレートすることは意味があるという。CEOのZhavoronkov博士によると、がんの投薬に関してのシミュレーション結果を主治医に示した結果、2/3のケースで主治医が治療法を再考したという。

In Silico Medicineは加齢、あるいは加齢に伴う病気に対する薬を発見すると書かれている

CEOのAlex Zhavoronkov博士(右)とGP-GPU Technology Evangelistという肩書のElena Rydkina氏(左)

Vuno Inc

Vuno IncはCTやMRI、X線画像などをDeep Learningで処理して診断を行う「VUNOnet」を提供している。医者や病院での画像診断をより短時間で、より正確に行うことができるという。

このような診断では人間の医師でも経験を積まないと画像を読むのは難しいと言われるが、Deep Learningで正常な部分と病変のある部分を区別し、病変のある部分は見やすいようにその種類で色を変えて塗り分けている。

また、この画像認識技術を使い、写真の中から文字列を抽出して、そのテキストを使って情報を得るというサービスも提供している。同社によるとGoogleのWord Lensより文字の抜き出しの精度が高いという。

Deep Learningで医療画像を解析する。左の2枚は自食作用の前、右の2枚は自食作用の後の画像で、自食作用を検出して画像を塗り分けている

腹部の輪切りのデータを、正常と各種の病変のある部分に塗り分け、どの程度の面積に病変があるかを表示している

Humanics

Hunanicsは外科医の手術のトレーニングを行う、「Virtual Open Surgery」というソフトウェアを作っている。メスを使った外科手術をクラウドのサーバでシミュレートして、その画像をリアルタイムで送るので、タブレットやPCがあれば、どこでも使えるという。また、一般的な人体モデルではなく、特定の患者のモデルを使って手術法の検討に使うこともできるという。

ただし、実際のメスを使うわけではなく、タブレット上で切る箇所を指でなぞるという操作なので、手術の感覚までシミュレートできる訳ではない。

メスで切った下肢の部分を広げて、中を見せているところ

足を輪切りにして、中を見せている

Loop AI Labs

Loop AI Labsはマシンが人間の世界を理解するのを助けるというキャッチフレーズで、以下の図では小さくて見えにくいが、右の図の一番上のY字は、upscale、elegant、classyという単語が近い関係にあるということを示している。中央のネットワークは上のenvironment、settingから下のmood lighting、pressed tinまでの13の単語の近さを表すグラフである。このようなグラフをDeep Learningで作っていく。

Loop AI LabsはDeep Learningで単語の意味の近さを表すグラフを作り、文章の意味を理解していく

次の例は、Moshi Moshiという日本食レストラン(サンフランシスコに実在する)に関する429件のインターネット上の書き込みを集め、その文章の中から、料理やサービスの評価に関する記述を抜き出し、スコアを表示している。400件あまりの書き込みを人間が見て情報を抜き出すとなると手間がかかるが、自動でできるとなると、グルメサイトの全レストランの評価を作ることもできるし、企業の製品に関する評判を纏めるなどのサービスができそうである。

Moshi Moshiという日本食レストランに関する書き込みをインターネットで集め、文章の意味分析で店のサービスや食べ物の評判、駐車の容易さなどの記述を抜き出し、右側の評価を作り出すデモ

VUNO IncやLoop AI Labsのように、Deep Learningを使って人工知能でより高次の情報を提供するというビジネスが出現しつつあるのが興味深い。ただし、Googleの画像サーチなどの無料のサービスなら、多少の誤りがあっても問題ないが、有料のサービスとなると精度に対する要求は厳しくなる。特に、医療画像の解析などではがんなどを見逃しては大変である。このような困難を乗り越えて、これらの会社が伸びて行くことを祈りたい。