成田空港で整備が進められてきたLCC(格安航空会社)専用の「第3旅客ターミナル」が、いよいよ本日(4月8日)から営業を開始することになり、その全貌が明らかになった。

延床面積6万6,000平方メートル、利用航空機の年間の発着回数は5万回、約750万人の利用者数を見込んでいる。そうした数値的な部分の一方で、色分けされた陸上トラックのような動線、ガラスではなく金網を使用した出発ゲート、450席のフードコートなど、"LCCらしさ"をふんだんに盛り込んだターミナルとなっている。

目をひく陸上トラックのような導線が、第3ターミナルのシンボル的な役割を担っている

今回は、この「第3旅客ターミナル」のクリエイティブディレクションを務めたクリエイティブラボPARTYの伊藤直樹さんに、その完成までのお話を伺った。

伊藤直樹
PARTY Creative Director/CEO。これまでにナイキ、グーグル、SONY、無印良品など企業のクリエイティブディレクションを手がける。国内外の200以上に及ぶデザイン賞・広告賞を受賞。最近の作品に、世界初の3D写真館「OMOTE 3D SHASHIN KAN」、無印良品「MUJI to GO」の世界キャンペーン、「PARTY そこにいない展。」(銀座グラフィックギャラリー)などがある。経済産業省「クールジャパン官民有識者会議」メンバー(2011,2012)。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授

PARTYが空港の設計に関わったきっかけ

目の前に現れた伊藤氏は思ったよりも大柄で、「体育会系」が第一印象だった。青い折り返しのついた個性的なシャツにジャケット、7分丈のパンツの下は白と赤の靴下にスニーカーととても爽やかな出で立ちだ。さっそく、第3旅客ターミナルのクリエイティブディレクションに携わることになったきっかけを聞いた。

伊藤さん:

スカイツリーを設計した日建設計さんから、成田空港の第3旅客ターミナルを作りたいということで、お話をいただいたのが3年前のことです。

通常、サイン設計はハコができてから必要なところに設置していく、というのが流れなのですが、建築計画の段階からサイン設計を念頭に置いた空港を作りたいという姿勢に興味を持ち、ふたつ返事で参加させていただきました。

通常のように、ハコが完成した後にサインを置くとなると、どうしても空間の制約などが出てくるのですが、一緒にゼロから参加することで、ターミナル自体のコンセプトというか、フィロソフィーがしっかりと全体に反映できたと思っています。

LCCターミナルを形作るということ

効率化によって低価格な運賃を提供するLCCの専用ターミナルというだけあって、ターミナルの設計も"リーズナブル"に行う必要があったという。

既存の空港に数多く設置されている内照式の看板は、1個あたりの価格が約100万円。同ターミナルの予算上、まずはこの看板をこれを減らすことが設計の前提となったそうだ。そこで、第3旅客ターミナルの看板には、何と横断幕などで使われるターポリンという布素材を採用。そこに光を当てることで、利用客に案内をしている。

一般的な空港では内照式看板を設置するところを、ターポリン素材の幕に照明を当てて同様の機能をカバーしている

――予算が限られた中、どのようにディレクションされたのでしょうか?

伊藤さん:

まず、設計費用が「ローコスト」であることをポジティブにとらえようと思いました。どれくらいシビアだったかと言うと、提案後に先方から最初に出てくるフレーズが「予算」でしたね(笑)経済的な合理性をデザインに落とし込んだらどうなるか、ということを最優先にしたんです。

要するに、制約を好きになれるか、ということだと思います。制約を愛することができれば「予算がないこと」も愛することができる。「じゃあ、こうしようか」「こんなアイディアはどうだろう」と発想していきました。看板が作れないなら、道を使って直接案内してしまおう。壁面にわかりやすく、大きくなデザインを施そう。こういった発想で、看板の設置数を大幅に削減しました。

本館が国際線エリア、ブリッジを渡ったサテライト側が国内線エリア。将来的に、このブリッジの下を航空機が行き来し、これまで見たことのない真上からの飛行機を眺めることもできる。