富士通が虹彩認証を出展

スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2015」にブースを出展した富士通は、虹彩認証技術を搭載したAndroidスマートフォンの試作機を披露した。同展示は米AndroidPIT誌によるベスト・イノベーション賞を受賞、来場者の大きな注目を集めていた。

富士通による虹彩認証スマートフォンの試作機

虹彩認証とは、あらかじめ眼球の虹彩情報を登録しておくことで、スマートフォンの画面を見るだけでロックを解除できる認証方式。一般に、スマートフォンのロック解除にはパスワードやパターン入力などを用いるが、それらと比べて虹彩認証は飛躍的にセキュリティレベルが高いという。

富士通 ユビキタスビジネス戦略本部 本部長代理の松村孝宏氏

富士通による生体認証の取り組みとして、スマートフォンには指紋認証を、ノートPCやタブレットでは静脈認証を実用化している。「虹彩認証は、静脈認証にわずかに劣る程度の高い精度を持つ。指紋認証をスタンダードとすれば、虹彩や静脈はプレミアムクラス。企業ユーザーの要求にもしっかり対応できる」(富士通 ユビキタスビジネス戦略本部 本部長代理の松村孝宏氏)と違いを語った。

さらに、画面を見るだけでロック解除できるため、手が濡れている状態や手袋をはめた状態など、画面に触れることが難しい状態でも利用できる点がメリットとなる。また、画面のロック解除にとどまらず、Webサービスなどのログイン時におけるID・パスワード入力の代用や、決済における認証にも利用できるという。「スマートフォンの写真ギャラリーを他人に見られたくない場合など、アプリごとにロックをかけることも可能」(松村氏)と利用シーンを挙げた。

専用の赤外線LEDと赤外線カメラが必要

富士通ブースに設置された試作機は、2014年夏モデルの富士通製Androidスマートフォンに虹彩認証用の専用モジュールを追加搭載したもの。外部モジュール内には、赤外線LEDと赤外線カメラを搭載する。

市販の夏モデルスマートフォンに、虹彩認証モジュールを搭載した。左側に赤外線LED、右側に赤外線カメラを備える。

実際に虹彩認証を利用するにあたっては、あらかじめ両眼の虹彩を登録しておく必要がある。「片眼でも利用できるが、両眼のほうが素早く認証できる」(松村氏)という。虹彩の登録は、アプリケーションを起動した上で画面を10秒程度見つめることで可能となっている。

赤外線カメラを用いて虹彩を登録中の様子

登録後は、実際に虹彩認証でロックの解除が可能で、画面を見つめると、ほぼ1秒以内にロックが解除される。眼鏡をかけたままでも問題なくロックを解除できた。パスワードやパターン入力と比べてもロック解除の手間は少なく、面倒さを嫌ってセキュリティを設定しないユーザーにも利用を促す効果があるという。

試作機で実際に虹彩認証を試したところ、ほぼ一瞬でロックを解除できた

指紋認証では偽造などのリスクも指摘されているが、「虹彩の偽造はまず不可能」(ブース担当者)と語る。虹彩は瞳孔の外側にある環状の部分で、2歳ごろからほとんど変化することがないという。

虹彩の読み取りには、赤外線LEDと赤外線カメラを利用する。まず赤外線LEDを用いて赤外線を眼球に照射し、赤外線カメラで撮影する仕組み。

虹彩認証技術はすでに存在しているが、富士通はスマートフォンに搭載できるようLEDやカメラを小型化し、撮影に独自のノウハウを組み合わせることで、日常のさまざまなシーンで利用できるようにしたという。松村氏はその特性を「どちらかといえば暗い場所のほうが得意。多くの光が反射するような環境では苦手な場合もある」(松村氏)と語る。

虹彩認証エンジンには、米Delta ID社によるコンシューマー向けデバイスに対応した世界初のエンジンという「ActiveIRIS」を採用。これにより、日常的にスマートフォンを見る程度の距離での虹彩認証が可能とする。また、赤外線LEDを照射することによる目の安全性も検証済みとしている。

スマートフォン本体への内蔵にあたっては、既存のフロントカメラとは別に、赤外線LEDと赤外線カメラを搭載する必要があるとする。「まずは個人向けスマートフォンに先行して搭載する。2015年度中に、できるだけ早く製品化したい」(松村氏)と説明する。その先の展開としては、「法人向けの展開を視野に入れている。タブレットやノートPCなどのデバイスにも搭載していく。今後のデバイスに、何らかの生体認証は必須だと考えている」(同)と展望を語った。

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