スマートフォンの普及で業務上のモバイル活用がトレンドとなって久しい。私用端末を業務に持ち込む「BYOD」の普及も望まれているものの、データ管理の問題から導入が進まない中で、Googleがようやく「Android for Work」として企業向けのAndroidプログラムを発表した。

その新たなフレームワーク「Android for Work」で管理とアプリの双方でGoogleと提携している会社がSAPだ。3月初めにスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2015」でGoogleとSAPの両担当者に話を聞いた。

Android for WorkはGoogleが2月25日に発表したもので、業務用と個人用のプロファイルを使い分け、データを別々に管理できることが最大の特徴だ。最新のAndroid 5.0(Lollipop)で利用できるほか、Android 4.0(Ice Cream Sandwich)以上でもアプリで個別に利用可能だという。なお、企業向けモバイルでは、iOSのAppleもIBMと提携を結んでいる。

MWCでは、Android for Workの製品ディレクターを務めるGoogleのAndrew Toy氏、SAPでモバイル戦略担当バイスプレジデントを務めるBill Clark氏に話を聞いた。

Google Android for Work 製品ディレクター Andrew Toy氏

――モバイル端末のセキュリティにフォーカスがあたっている。Android for Workはそのようなトレンドを受けてのものか?

Toy氏「セキュリティとプライバシー、2つの面がある。Googleは会社としてもセキュリティに取り組んでおり、Androidもこれまでセキュリティを重視してきた。AndroidではLinuxカーネルの強制アクセス制御であるSELinuxによる保護を有効にしている。

Android for Workでは、カーネルレベルでプライベート用と業務用のデータを分離する。暗号化を簡単に利用できるようにし、APIを利用して端末のセキュリティとデータ制御を管理できる。SAPなど提携企業はこれらのAPIを利用できる。

アプリ側ではエンタープライズ向けのアプリストア『Play for Work』を用意する。Androidにアプリを実装する方法はいくつかあるが、Play for Workはエンタープライス向けのアプリを実装する標準的な方法となる。SAP技術を利用してアプリの開発からパブリッシュ、そしてPlayストアで配信が可能だ」

Clark氏「SAPはアプリの開発、プロビジョニング、ユーザーと3つのサイクルを回す『Mobile Place』コンセプトを持っており、そのための技術と資産を提供する。Android for Workはこれを利用するものだ。

今回、Android for WorkにSAPのMobile Secure(エンタープライズモビリティ管理)を統合した。これにより、アプリはPlay for Workからしかダウンロードできないなどの制限が可能になり、企業はSAPなどが提供する管理機能を利用できる。

Googleにとっては、iOSからマーケットシェアをうばうという点でゲームチェンジャーになるだろう。だが、大きな視点から見るとモバイルがヘテロジニアス環境になり、SAPはここでバリューを付加できる」

Toy氏「アプリの実装はマルウェア対策として重要になるし、カーネルレベルでのセキュリティも特徴だ。これにより、SAP側がワークデータを管理するが、個人用のデータにはアクセスできない」

――使いやすさとセキュリティのバランスは?

Toy氏「ユーザー体験は1つに統合されており、個人用と業務用をスイッチする必要はない。OSレベルでは違うユーザーだが、ユーザー体験は一つ。ユーザーが違いを感じることはないだろう」

ユーザーはプロファイルを切り替える必要はない。業務用はブリーフケースのアイコンが付いている

――AppleとIBMがエンタープライズ向けモバイルで提携しており、2014年末に最初の成果を発表した。Android for Workはこれに対抗するものとなるのか?

Toy氏「Googleは自分たちのイニシアチブを持っているが、世界がどちらか2つに分かれるとは思っていない。Androidは大きな"テント"のようなもので、誰でもウェルカムだ。

企業は参加しないこともできるが、デバイスメーカー、アプリやサービス開発企業などAndroidのエコシステムは大きくなっている。これはわれわれの方針が受け入れられていることを裏付けている」

Clark氏「SAPはIBM対抗とは思っていないし、Android for Workで行っているのは(Apple/IBMとは)アプローチが異なる。

TCOという面では方程式が異なる。Googleがエンタープライズに本腰を入れることで、企業が安心してモバイルを利用するためのコストが下がるだろう。これは業界にとってよいことだ」

――Microsoftは「Windows 10」でOSを統一し、さまざまなデバイスで動くUniversal Appsを売り込んでいる。「Office」の親和性ではWindows Phoneに軍配が上がる。

Toy氏「競合は良いことだ。Appleは成功している。Windowsも対抗しており、これによりAppleもAndroidも改善する。Androidにはすばらしいアプリのエコシステムがあり、デバイスでは高いシェアを持つ。成功しているが、だからといってそこでストップするのではない。このように競合は業界全体をよくするものだ。

現時点では、スマホとタブレットでわれわれはリードしている。Windowsはモバイルで存在感があるとはいえない」

SAPでモバイル戦略担当バイスプレジデントを務めるBill Clark氏

――SAPはSamsungとも提携しており、Androidにフォーカスしているようにみえる。

Clark氏「ここ数年のAndroidの爆発的な成長から、Androidデバイスの体験を管理し安全にすることはSAP顧客にとって重要な課題となっている。SAPはAndroidのほかiOS、WindowsなどのOSで提携や技術開発を行っており、今後も継続する。

モバイルでは「SAP Mobile Platform」を展開しており、作成したアプリをソースコードを変更することなくMicrosoft、iOS、Androidなどのデバイスで動かすことができる。

HTML5のコンテナのようなもので、10年以上前に"一度書けばどこでも動く"がいわれたことがあったが、コンテナアプローチによりこれが簡単になった。

もちろん、標準的なHTML5を利用したい場合はそれも可能だ。われわれはOpenUI5としてJavaScriptライブラリを公開している。このようにさまざまな取り組みを進めており、今後も継続する」

――Android for Workのロードマップは? Samsungの業務用セキュリティ機能「KNOX」との違いは?

Toy氏「MWCの前にプレビュー版として発表した段階。現時点で詳しく話せることはないが、目標としているのは、モビリティでビジネスを変革するということだ。

モビリティはビジネスをもっと効率よくできるツールだ。これは全員にメリットをもたらすものだ。Androidを使ってどのようにビジネスを変革できるかを考えている。

現在のAndroid for Workはセキュリティと管理面にフォーカスしたが、これで終わりではなく、今後もっとできることを拡大していきたい。

Samsungについては、Android for Workで重要なパートナーの1社だ。KNOXは素晴らしい技術セットで、Android for Workを超えるものであり、規制の強い業界ではKNOXの技術は重要といえる」

――Android for Workのエコシステムを拡大する必要がある。

Toy氏「現在、エンタープライズモビリティ管理ではSAP、AirWatch、BlackBerry、Citrixなどが参加しており、アプリではSAPとSuccessFactors(SAPの一部)のほか、Adobe、Box、Concur、Salesforceなど。今後も拡大していきたい」

Clark氏「Googleはすばらしいパートナーで、Android for Workで協業を継続する。SAPの強みは、ビジネスインテグレーション分野での複雑なアプリでの知識や経験だ」