効率の良い次世代エンジンの開発に貢献するaFJR

aFJRは、これまでよりも効率の良い次世代ジェット・エンジンの開発を目指したもので、「advanced Fan Jet Research」の頭文字から取られている。

またFJRという名前は、今から約40年前に開発された日本製の高性能ターボ・ファン・エンジン「FJR710」にも因んでいる。FJR710はその成果が「V2500」というエンジンに技術が継承された実績があり、同シリーズのエンジンは現在、エアバスA320シリーズなどの世界的なベストセラー機に搭載されている。また日本のメーカーは主に低圧系のファンとタービンの製造を担当しており、そのシェアはエンジン全体の23%に上るほどだという。

FJR710エンジン (C)JAXA

V2500エンジン (C)International Aero Engines

今回はじまる新しいプロジェクトも、FJR710のように日本の航空産業に貢献したいという想いが込めて、FJRの名前が継承されたのだという。

aFJRが立ち上げられた背景には、航空機の騒音やNOx(窒素酸化物)に対する環境基準が年々厳しくなっていることや、また燃料価格の高騰や不安定さから、燃費の良い航空機が期待されていること、また、燃費が良くなればCO2などの温室効果ガスの排出量も減少させることができることなどがある。

そのためには、エンジンの「バイパス比」を大きくすることが必要だ。バイパス比というのは、エンジンの前方に取り付けられた大型のファン部分のみを通過する空気の量と、エンジンの中心部分を通過する空気の量の比率のことで、これを大きくすることで燃費が上がり、排気ジェットの騒音も減少させることができる。ただ、バイパス比が大きいほうが良いというのは亜音速で飛行する航空機に限った話で、超音速で飛行する航空機にとっては、逆にバイパス比が低いエンジンのほうが適している。

旅客機用のターボ・ファン・エンジンのバイパス比は年々高くなっており、例えばV2500シリーズのエンジンのバイパス比は5前後だが、最新のボーイング787に搭載されているRRトレント1000というエンジンは11もある。また、エアバスのA320neoや、日本が開発中の旅客機MRJに搭載されるPW1000Gシリーズは、最大で12にまで達するという。しかし、aFJRではさらにその先を見据えて、バイパス比13以上にもなる超高バイパス比のエンジンを実現させるという。

開発のポイントとしては、まずファンの軽量化が挙げられる。素材には炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使われる。すでにCFRPはいくつかのエンジンで使われ始めているが、aFJRでは内部を中空化したり、構造を見直すことで、さらなる軽量化を図るという。これにより、V2500と比べて0.9%ほど軽くなるという。また、軽量化ファンのブレードの形状を工夫し、表面を流れる気流の層流が乱流に変わる地点を後方に遅らせて抗力を減少させる「層流ファン空力設計技術」が使われるという。さらに、そのファンを回すために使われる低圧タービンの羽にセラミックス基複合材料(CMC)を用いることでも軽量化が図られる。さらに、エンジン・ナセルの内側にある、音を吸収する吸音ライナーも、現在はアルミが使われているが、性能を維持しつつ、より軽量なプラスチックを用いるという。これらの改良によって、V2500シリーズと比べて、エンジン総質量を10%程度減少させることを目指すとされる。

aFJRは、これらブレードや吸音ライナーなどの技術について、各要素レベルでの性能試験を行う計画だ。試験にはJAXAの他、IHIや東京大学、筑波大学、金沢工業大学が参画し、JAXAやIHIの試験設備を使って、性能の確認の他、ファンに鳥が衝突したときの状態を見るためのゼラチンを打ち込む試験、また軸が破断したときに回転数が上がるのを防ぐため、羽を壊しながら速度を落とす過回転防止ブレードの試験などが行われる。

各要素の開発は数年前からはじまっており、2012年度までに設計技術や使用する材料の研究が行われ、2013年度には計画の準備や策定などが行われた。そして2014年度から試験がはじまり、2015年1月にaFJRチームが発足したという。試験計画は5年で、2017年度までに終え、その後実際のエンジンの開発、製造に活かすため、技術移転を行っていきたいとのことだ。

エンジンから出る騒音が減り、燃費も向上すれば、航空会社にとっては利益が増加するため、aFJRの市場における価値が高くなることが期待されるという。またV2500のファンや低圧タービンなどの低圧系要素は日本のメーカーが担当しているため、多くの技術の蓄積がある。おそらく国際共同開発になるであろう次世代エンジンにおいても、aFJRの成果とその優位性を活かして、開発や製造に食い込みたいという。

発表を行ったaFJRプロジェクト・チームのプロジェクト・マネージャーの西澤敏雄氏は「試験の成果を実機の開発につなげていきたい」と期待を語った。またIHI理事の金津和徳氏は「このプロジェクトを通じて、日本のエンジン競争力の向上に期待したい。また若手技術者の人材育成になることも期待している」と語った。