売上向上に結びついた、シンプルなデータ活用法とは

楽天では、データウェアハウスを活用した分析を事業施策に生かす試みを2007年頃から本格化した。同社のようなインターネット業者の特徴として、消費者とWebの画面で対峙していることが挙げられる。

「顧客の属性データや購買履歴を分析して、顧客の属性ごとにクラスタリングしている。顧客をセグメント化して適切なバナーを出し分けて購買に結びつけたり、レコメンデーション機能を活用したりすることは、売上に対するインパクトがとても大きい」と森氏は言う。

しかし、顧客を分析することの限界もいくつかあるという。それは、ロングテール化していることでデータがスパース構造(疎な構造)となってしまい、分析の効果がほとんど期待できないことなどである。

森氏は言う。「もう1つ、顧客の情報は基本的に遅延情報だということを忘れてはならない。そこにこだわっていると、ビジネスの基本的なアクションの機会を逃してしまうことになる。あと、プライバシーが非常に重要。たとえ適法であってもデータ共有やデータ活用から撤退しなければならなくなるリスクもある。そのため、適切なデータの管理を行うための社員教育や、社員の行動のトレースもしなければいけない」

森氏は、「顧客の情報分析にばかりこだわるあまり、普通にネットで公表されている情報を見逃しがちなのでは」と問う。そして、単純な情報を生かして売上に結びつけた楽天での事例を示した。

2006年頃、商品カテゴリごとの人気ランキングを1位から100位までサイトで紹介する楽天プロダクトランキングの拡充について上層部から提案された。そこでまず更新頻度を上げ、続いてジャンルを増やしていったのである。データ量は急激に増加し、処理の負荷も高まったが、これにより売上が向上したのである。

「ロングテールなので、ジャンル分けも細かければ細かいほどいい。あまり細分化されていると使い勝手が悪いのではと思われがちだが、ユーザーは検索で直接情報にたどり着くので実は問題はない。かつて300だったジャンルは、今ではジャンル30000にもなっており、リアルタイムで情報を更新しているものもある」

つまり、データサイエンティストの活躍などではなく、データを個別かつ大量に細かく取り扱う基盤をつくっただけで、楽天では売上の向上を実現したのである。

「ロングテールに耐えられるぐらい、商品に関する情報が拡充されているかどうかが肝となる。そしてビッグデータとは、大量に存在するデータを個々に扱えるかだと言ってもいい」(森氏)

一方で楽天では、商品の需要予測システムも開発しており、マイナーな商品であっても、どれぐらい売れるかをかなりの精度で当てることが可能になっているという。ここでは、膨大なデータから季節性やイベントなどの要素を加味して、商品販売量の予測につなげているのである。

需要予測システムの例

「コンピュータ=機械の量をこなす力と、人間の新しいものを感じ、生み出す力を融合させることで、ロングテールにふさわしい新しいビジネスが実現できる。ロングテール化している人々の制約されないクリエイティビティをどうコンピュータと組み合わせるかが、これから大事になるだろう」──講演の最後、森氏はこう訴えかけて壇を後にした。