「光る花」を蛍光タンパク質の遺伝子組換えで作製するのに、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)花き研究所(茨城県つくば市)の佐々木克友(ささき かつとも)主任研究員らが初めて成功した。国立科学博物館(東京・上野、2014年10月28日~15年2月22日)で開催中の「ヒカリ展」で一般に初公開して、人気になっている。

写真1. 遺伝子組み換えで作製されたトレニアの光る花。青色光を照射後、黄色のフィルター(中)とオレンジ色のフィルター(下)とでは、透過する蛍光の波長に違いから見え方が異なる。(提供:農研機構花き研究所)

花に光という新しい価値を与え、園芸植物に新分野を開く成果として世界的に注目される。NECソリューションイノベータ、インプランタイノベーションズ、奈良先端科学技術大学院大学との産学官連携の共同研究で、10月30日付の日本植物細胞分子生物学会誌Plant Biotechnologyオンライン版に発表した。

写真2. 光る花のドライフラワー。通常の光(上)では、野生型も組み換え体も同じように見えるが、青色光を照射して黄色のフィルターを通して観察すると、野生型は見えないのに対して、組み換え体は黄緑色の蛍光が観察できる。(提供:農研機構花き研究所)

遺伝子組み換えしたのは、夏に咲く鉢花として知られる1年草のトレニア(夏スミレ)。海洋プランクトンの黄緑色蛍光タンパク質遺伝子を3重に連結して導入し、たくさんの蛍光タンパク質を作れるよう独自に工夫した。青色発光ダイオード(LED)で照射して、黄色のフィルターを通して見ると、遺伝子組み換えのトレニアの花は強い蛍光を発した。

蛍光を活性化するための光には、ノーベル物理学賞に輝いた青色LEDが適していることも確かめた。さらに観賞用のフィルターを選択すると、蛍光の見え方が異なり、その変化を楽しむことができた。この技術で、光り続けるドライフラワーを作れることも示した。遺伝子組み換えでこの蛍光タンパク質は葉や茎など植物体全体で発現していたが、ほかの色素に邪魔されないため、花が特に蛍光に光り輝いた。

遺伝子組み換えをしているため、この光るトレニアの花を品種にして流通させるには、栽培しても野生生物に影響しないことなどを確認する必要があり、早くて3年はかかる。国立科学博物館での「ヒカリ展」の一般公開は、特別の手続きを経て実現した。

佐々木克友主任研究員は「ノーベル賞受賞者の下村脩(しもむら おさむ)先生が見つけた緑色蛍光タンパク質で最初に試みたが、鑑賞できるほどには十分に光らなかった。黄緑色タンパク質を大量に発現させる手法などを組み合わせて、『光る花』の突破口を開いた。ぜひ実用化したい。ほかの植物でも、白い花なら、この手法で光るだろう」と話している。