続いては「うってみよ」の触り心地を伝える「触感放送」である(画像10)。要はテレビのスポーツ中継などに映像と音声に加え、触感も一緒に放送しようというコンセプトのコンテンツだ。こちらは2014年に制作されたもので、第4回KMDフォーラムの時が初登場と思われる。今回もバドミントンを題材にしており、来館者は同競技のラケットを持って体験する仕組みだ(画像11)。手に持っているラケットはグリップが振動する仕組みになっており、映像の中で選手がラケットでシャトルを打った瞬間にその衝撃が再現される。つまり、スポーツ中継の臨場感がより増すというわけである。

画像10(左):「うってみよ」のコーナーは、触感放送のモニタを中心にしたリビングのイメージとなっている。画像11(右):振動機能付きのラケット。自宅でラケットやバットを振り回すのは危ないので、スポーツジムなどでこうした触感放送のシステムを採り入れるといいかも知れない

今回は、KMDフォーラムの時にはなかった見せ方も用意された。1人の選手がシャトルをスマッシュする瞬間を真横から撮った映像が用意されているのだが、来館者が持つラケットのスイングでコマ送りもしくはコマ戻し(逆コマ送り)できるようになっているのだ。コマ送り・コマ戻しの速度もラケットを振る速度に対応している(動画2)。

もちろん、単にコマ送り・コマ戻しのコントローラとしてラケットを使うだけが狙いではない。映像で選手のラケットがシャトルをインパクトする瞬間にラケットが振動するのだが、上手なスイングだときれいな振動が生じて手応えがよく、下手なスイングだと変な振動が生じるので手応えが悪い。つまり、うまくスマッシュするためのラケットの振り方を触感的に覚えられるというわけだ。

動画
動画2。触感放送で、ラケットで映像をコントロールしている様子

この触感放送は個人的には結構面白い可能性を秘めているのではないかと思う。というのも、道具を使った競技はバドミントンのほかにも、野球はもちろんのこと、テニス、卓球、ゴルフ、アイスホッケーなどいくつもある。

実際に競技を行う選手たちの道具に、うまく競技の邪魔にならないよう振動を感知するためのセンサを取り付けることさえできれば、お茶の間にインパクトの瞬間の手応え、例えばバットの場合は、芯でとらえた時の感触と芯を外した時のしびれるような感じなどを届けられるというわけだ。ただし、ちょっとした重量やバランスの変化が選手のスイングに影響してしまうはずなので、実際の試合中に装着させてもらえるかどうかは難しいかも知れない。それに、卓球のラケットならともかく、よほどリビングが広いのなら心配ないが、一般的な部屋だとちょっとバットやクラブなどを振るのは怖いところがあるので、小型のバットとかを用意しないとダメかも知れない。

ある意味、任天堂のゲーム機WiiやWii Uのリモコンはそれをゲームで実現しているわけだが、あの感覚をスポーツ中継に応用できたら、スポーツ観戦の楽しみ方が広がるのは想像してもらえることだろう。また触感放送は、視覚や聴覚に障害を持つ人たちにとっても、スポーツ中継をより楽しめるようになるはずで、そうした使い方もありなのではないだろうか。ぜひ、テレビ局にも考えてもらいたいものである。

続いては、2011~2014年の作品が展示された、「テクタイル・ツールキット」を利用した「つくってみよ」のコーナー(画像12)。テクタイル・ツールキットはKMDフォーラムでも紹介したが、物や身体から触感を記録し、それを物や身体にフィードバックすることで触感を再生・拡張するための装置だ。記録用のマイクロフォン、再生するためのスピーカー、オーディオアンプなどで構成されたツールキットで、テクタイル(TECHTILE)は「TECHnology based tacTILE design」の略である(画像13)。KMDリサーチャーの仲谷正史氏、慶応大学 環境情報学部の筧康明准教授らが中心となって2007年からスタートし、南澤准教授も研究メンバーの1人。そして、生活の中に触覚をメディアとして採り入れると、まったく違ってくるということを知ってもらうため、同キットを使ったワークショップを開催しているという具合だ。

画像12(左):「つくってみよ」のコーナー。テクタイル・ツールキットを使った作品例が並ぶ。画像13(右):テクタイル・ツールキットの一式

同キットを使った触感系のコンテンツとして有名なのが、紙コップを使った「触感糸電話」(筆者による仮称)だろう(画像14~16)。こちらもKMDフォーラムで紹介したが、触感糸電話の送り手側の紙コップにビー玉や石灰などを入れるとその入れられる時の感触や、中でグルグルと回したりするとその感触が受け手側の紙コップにその振動が伝わり、中に何も入ってないのにまるで自分の紙コップにもビー玉などが入っているような感触がするというものだ。

ちなみにこのコンテンツを試すと、指に感じられる振動と耳に聞こえてくる音が近い感じというか、つながっている感じがわかる。現在の研究では、聴覚は触覚の一部が発達したと考えられているそうで、それが納得できるのがよくわかるのだ。舘博士たちの研究では、両者が連続したものとしてとらえているそうである。

画像14(左):「つくってみよ」の中の触感糸電話のコーナー。左の赤いコップにビー玉などを入れると、その触感や音が右のコップに伝わる。まるで眼に見えないビー玉が入って来たり、コップの底でグルグルと回っていたりするような感じがするのだ。画像15(中):赤いコップの底の裏側には、振動をキャッチするためのマイクロフォンが貼り付けられている。画像16(右):触感を再生する青いコップの方にはスピーカーが貼り付けられている

さらに同キットに関しては、今回はそれを応用した、さまざまな作品も用意されていた。同じくKMDフォーラムで紹介した「GaTaGo Train」(画像17・動画3)。オモチャの電車をレールに沿って走らせるとリアルな走行音やブレーキ音などがするのだが、KMDフォーラムバージョンでは足下に振動する仕組みも用意されていて、足裏からも振動を感じられてさらにリアルだった。