スマートフォンが普及してからというもの、かつての携帯電話時代には言われなかった「セカンドスクリーン」という用語がよく使われる。

これは、「ファーストスクリーン」をリビングのテレビと定義した上で、エンターテインメントコンテンツを楽しめる2番目の画面"セカンドスクリーン"と呼ぶわけだが、日本人からすると「フィーチャーフォン(ガラケー)時代からエンタメコンテンツを楽しんでいた」と思う人も多いだろう。

しかし、欧米ではフィーチャーフォンが単機能携帯としてSMS/メール、電話に少しばかりのカメラ機能が付くものというイメージであったため、スマートフォン時代における"セカンドスクリーン"のインパクトは我々の感覚以上といえる。

しかし今や、"セカンドスクリーン"とは名ばかりで、"ファーストスクリーン"である「テレビ」の視聴体験は減りつつある。これは、Googleが2013年に行なった「マルチデバイスの利用動向調査」でも触れられており、テレビのメディア接触率は27%にとどまるのに対し、スマートフォンは40%と、マルチデバイスの中で最も高い接触率を記録している。

これは、テレビを卑下しているわけではなく、スマートフォンというデバイスがより人に寄り添った"パーソナルデバイス"だからという点が大きいだろう。

毎日肌身離さずポケットに入れて持ち運び可能なネットもできる高機能端末と、エンターテインメントコンテンツを見るためだけのデバイスでは、そもそもの役割が異なる。むしろ、コンテンツを受動的に見るだけのデバイスにもかかわらず、接触率が27%とマルチデバイス環境で2位を維持しているのは、未だにテレビコンテンツが強大な力を持つ証ではないだろうか。

スマートフォンの次は?

Googleは世界中の情報を整理して、世界中の人々がアクセスできるようにすることをミッションに掲げているが、モバイル化へ邁進する姿はそのミッションを考えると当然の流れと言えるだろう。

Android OSはモバイルOSの約半数を占め、Googleの根幹である検索サービスを下支えしている。もちろん、iPhoneのiOSも拮抗しており、GoogleとAppleの二大巨頭で市場シェアの9割を占めるという市場調査が多く見られる。

この両社が、「スマートフォンの次」を狙っているとされるのがウェアラブルデバイス。Googleは3月にスマートウォッチ向けOS「Android Wear」を発表し、9月にはAppleもかねてより噂のあった「Apple Watch」を発表。いよいよ本格的なウェアラブルデバイス時代の到来と言われている。

しかしその一方で、この1~2年ほどの間に、Appleが製品を出すのではないかと噂になりながらも、未だに発表されていない製品がある。それが、ファーストスクリーンの「テレビ」だ。シャープと手を組んで出すのではないか、台湾の鴻海精密工業が試作品を作ったのではないか、と様々な憶測が流れていた時期もあったが、ここしばらくは噂自体が全く出なくなってしまった。

それとは対照的な動きを見せるのがGoogleだ。Android TVと呼ばれるテレビ向けのOSプラットフォームをこの秋より提供すると6月にアナウンス。かねてから一部OEM各社と組み、ネット体験をテレビに持ち込む「Google TV」といった取り組みも行なっていたが、スマートフォンの普及が一段落し、ネット体験がよりパーソナルなものとなったこのタイミングで、改めて本腰を入れるといった格好だ。

Android TVは、Android OSをベースとしているため、テレビ向けにアプリ開発を行ないたい開発者がより簡単にアプリを提供できるようになる。セットトップボックスタイプの製品が現状用意されると言われているが、ソニーやシャープといったTVメーカーからもAndroid TV採用のテレビが販売されると見られる。

GoogleとAppleの戦いは、かつてのMicrosoftとAppleの戦いと同じく、「OEM各社にOSを提供してシェアを取る企業と、自社で管理した高品質な製品体験を提供する企業」という構造だ。もちろん、ユーザーにとってはシェア争いなどどうでも良いし、GoogleとAppleも双方が「競合よりも、自社のエコシステムがどう上手く回し、ユーザーにより環境が作れるのか」を念頭に考えていることだろう。

しかし、新規分野は先行者利益が大きく、共通プラットフォームとして地位を確立できれば、ネットに繋がるデバイスを押さえるという意味ではGoogleが優位に立てる可能性が大きい。それこそ、今後Appleがテレビ市場に参入したところで、iPhone/iPadほどのインパクトを与えられないかもしれない。

スマートテレビは以前からある?

Android TVそのものは、実は目新しいものではない。ソニーやシャープ、パナソニック、東芝といった国内メーカー、サムスンやLGなどのグローバルメーカーを含め、「スマートTV」という名の下に、YouTubeやHulu、国内サービスではニコニコ動画やU-NEXTなどの「大画面で見たいエンターテインメントコンテンツ」を配信するサービスを、新しいデバイスを購入することなくテレビだけで体験できる。

また、自宅のテレビにスマートTV機能がなくとも、HDMI端子に差すだけでテレビをスマートTV化できるデバイスがある。それが「Chromecast」だ。2013年7月に米国で販売を開始し、2014年5月には国内でも発売された。

HDMI端子にデバイスを差してUSB経由で電源を取るChromecastは、"セカンドスクリーン"のスマートフォンやタブレットで操作する。これまでのスマートTVでは、リモコンなどで文字入力を行なっていたが、ChromecastでYouTube閲覧、検索を行なう場合は、あくまでスマートフォン上で検索する。

YouTubeはChromecast対応アプリとなっており、検索した動画からChromecastアイコンをタップするとテレビでYouTubeが再生される仕組みだ。

Chromecast対応アプリは、SDKが公開されており、アプリ開発者であれば誰でも対応アプリを作れる。先ほども例に挙げた無料/有料のエンターテインメントコンテンツを配信するWebサービスも、各ベンダーが対応を済ませており、Googleが一定の審査を行ない認定したアプリは、正式対応アプリとしてPlayストアのオススメコーナーで紹介される。

9日には、LINEの子供向けサービスである「LINE KIDS動画」や「U-NEXT」「楽天ショウタイム」が対応。より気軽にテレビとスマホを行き来できるようになる。

LINE KIDS動画に対応

Chromecastの優位性

グーグルのパートナー事業開発本部で統括部長を務める林 豊氏は、Chromecastと競合機能を比較して、メリットを次のように語る。

「Chromecastは、HDMI経由でテレビに出力するように有線で繋げる必要がなく、ミラキャストのように画面をそのままテレビに"ミラーリング"するわけでもない。ミラーリングは、リアルタイムで表示情報をテレビに送るため、どうしても低ビットレートで荒く写ってしまい、YouTubeなどの高画質映像をテレビで見ようとしても、綺麗に見られない。その点Chromecastは、スマートフォンと連携して、『YouTubeのこの動画を見る』とChromecastに伝えると、デバイス自身がネット経由で直接コンテンツを引っ張ってくるため、高画質で映像を見られる。当然ながら、スマートフォンで全てをコントロールできるため、"モバイルファースト"が進む現在の操作感から、ユーザー体験を変えることなくコンテンツを楽しめる『未来型のお茶の間エンターテインメントシステム』だと思います」(林氏)

また、ChromecastはWi-Fi(アクセスポイント経由)でスマートフォンと連携するが、1:1の関係ではなく、複数のスマートフォンと連携できる。例えば、パーティーなどで友人の自宅に行き、Chromecastを繋いで「私はこの曲が好き。いや、私はこっち、といった感じで、楽しくテレビを使ったコミュニケーションが図れます」とグーグル マーケティングマネージャーの虫賀 千絵さんは使い方を限定しない利用方法を提案する。

Chromecastの真骨頂は、それぞれ独立した操作が可能なところだが、ミラーリング機能もサポートする

別のスマートフォンがChromecastに接続すると、〇〇が参加したと表示される

「9日よりLINE KIDS動画が新たに対応しました。お子さんが『動画を見たい』といってお母さんのスマートフォンを奪い、そのまま遊んで電池が切れたり、間違って電話を掛けてしまったりするという話をよく耳にします。でも、Chromecastに繋げれば、繋ぐことも簡単ですし、『動画をChromecastで再生する』と選択するだけで、テレビで流れるようになる。変な操作を心配する必要がないし、電池も持つし、大画面で動画が見られるので、お子さんも満足できると思います」(虫賀さん)

基本的に、コンテンツをキャスティング(流す)するだけのChromecastだったが、普段からChromecastを常用してもらえるよう、新たに「背景」機能を追加した。これまでも、特定の画像が流れる仕組みにはなっていたが、自分がGoogle+フォトに上げた画像なども背景として設定し、あたかも「巨大フォトフレーム」であるかのようにテレビを仕立てられる。

写真家による美しい画像や、個人の写真も"巨大フォトフレーム"に流れてくる。右の画像は林氏の愛犬

自分の写真は微妙……という人には、Googleが世界中の美術館協力のもとに写真をアーカイブした「Google Cultural Institute」や、Google Mapsの印象的な航空写真など、プロのコンテンツも流れてくるため、自宅で美術鑑賞ができるようになる。

「好きなアーティストのポスターを貼る人もいると思いますが、そういった代わりに使うのとも良いかと思います。4200円(税別)ですし、他人にプレゼントするにも程よい金額。アメリカのAmazonでは、2013年のホリデーシーズンに人気No.1プレゼントだったんです」(虫賀さん)

林氏によると、全世界ですでに数百万台が販売されたとのことで、日本でも販売パートナーが拡大するなど、好調な売れ行きだという。

動画アプリだけではなく、簡単なChromecast対応ゲームアプリもある。これは、コンテンツがテレビに流れながらも、手元のスマートフォンで文字を入力して正しいキーワードを当てるゲームだ

「日本のAmazonでも、映像をキャストするデバイス部門で発売以来ずっと1位となっています。(今後はどのように販売していくのかとの質問に)YouTubeを見ている人は、日本に5000万人居ると言われています。Chromecast対応アプリの1つであるdocomoさんのdビデオも契約者数が数百万人居る。その中で、『テレビでコンテンツを見たい』という人が多く居るだろうし、それだけの需要があると思っています。マーケットニーズは非常に大きいです」(林氏)

普及、浸透を図るためには、高齢者層や、いわゆるレイトマジョリティ層にも訴求していく必要がある。林氏は最後にその点についてこう語った。

「使い方自体はとても簡単なもの。説明書を読まずにセットアップできるし、そこが重要だと思っている。スマートフォンの普及率が過半数となり、日本の家庭にあるテレビは、地デジ完全移行でほとんどHDMI付きとなった。前提条件となる環境はすでに整っていると思う。例えば、孫の写真をおじいちゃんに見てもらうために、Chromecastを実家に差しっぱなしにしておくといったこともできるし、そういった"気付き"を与えることができれば、購入に至るプロセスはそう難しくないと思っています」(林氏)

グーグル パートナー事業開発本部 統括部長 林 豊氏(左)と同社 マーケティングマネージャー 虫賀 千絵さん(右)