25の大学・研究機関で構成される「大学研究力強化ネットワーク」は9月3日、参加大学などの研究担当理事などが集う全体会議を開催し、これまで進めてきた研究力向上に向けたタスクフォースの概況などを話し合った。また、併せて、研究大学の課題、ネットワークの意義や役割についての記者向け説明会が行われた。

同ネットワークは、日本の大学の研究力の向上によるイノベーションの加速や地域への貢献を実現するためには、一部のトップレベルの大学ではなく、科学技術の基盤を支える30程度の大学の研究群による全体の研究力の強化が不可欠という趣旨のもと、自然科学研究機構が世話役となって設立されたもので、参加研究機関が研究基盤を強固にすることを踏まえ、力を合わせて日本の研究力を高めていくことを責務とし、2014年3月5日に第1回の全体会議が開催されて以降、全体会議の下に運営委員会ならびに複数のテーマごとにタスクフォースを作り、運営を行ってきた。

「大学研究力強化ネットワーク」の概要と、参加機関一覧(2014年8月1日時点)

こうしたネットワークが形成された背景には、日本の大学に向けた研究開発資金の投資が諸外国に比べて低いということが挙げられる。特に対GDP比で見た場合の研究予算の伸びは海外に比べて低く、比率としては横ばい、ないしは若干の下降気味だが、その一方でアジア・太平洋地域、特に中国が急速に伸びており、アジア諸国が猛烈な勢いで研究・開発力を強化している。

各国のGDPに対する公財政支出の比較と各国の科学技術関係予算の推移

また、もう1つの指標として、論文数のシェアを見ると、直近では日本は以前の3位から5位に落としている一方、中国が2位に入ってきていることがあげられる。特に論文誌の格ともいえるインパクトファクターの値が高い論文誌への掲載数が相対的に低下しているという。

国・地域別論文発表数の上位25カ国・地域の1998-2000年の平均と2008年-2010年の平均を比較したもの(左)と論文シェアの推移(右)

こうした状況と、日本における研究資金の各大学や研究機関への配分比率はどうなっているかというと、トップクラスの大学などの比率が高く、トップである東京大学を100%とした場合、10位でその15%、20位になると6%とかなり低い額となる。では諸外国はどうか、というと、米国と英国を例にとると、10位では米国が36%、英国でも35%、20位になっても米国が26%、英国17%と、日本と傾斜配分に差が生じていることがわかる。ちなみに、米国はトップ研究機関が1400億円、英国が180億円、そして日本は220億円という金額であり、米国はともかく、予算規模が似通った英国であっても、英国の方がはるかに中堅層に手厚く配分が行われていることがある。

この結果として、各大学の論文数シェアを見ると、トップ4の累計シェアの比率はほぼ英国と同じだが、それに次ぐ1%以上を占める大学の割合は日本が13、英国が27と、明らかに状況が異なっていることがわかる。

日本と英国における論文数シェアと大学数の関係

こうした事実を踏まえ、日本全体として研究力を高めていくためには、ある程度の数の大学や研究機関が相応の支援を受ける必要性があるというのがネットワークとしての基本的な考え方となる。また、こうした提言などを行う組織的なものとして、RU11(学術研究懇談会)やURA(リサーチアドミニストレーター)ネットワークがあるが、同ネットワークでは、そうした既存のネットワークとの連携も今後、積極的に行い、大学・研究機関として、本当にどの程度の資金が何に必要なのか、といったことの情報共有などを図っていくとする。

しかし、当然、大学や研究機関への資金の大半は税金であり、それを必要だから言い値で欲しい、というのは無理だということえ、行うべきところは共同して行うなど、相互の連携を強化していき、それでも必要となるところを行政に働きかけを行っていくための組織が同ネットワークということになる。同ネットワークでは、「決して国に予算をくれ、という話をするわけではなく、研究力を強化するために、何をするべきかということを問題として話し合う場。例えば、基盤的な光熱水料や消費税の増税、円高に伴う影響、そうした大学や研究機関で共通した問題などをシェアして、政策課題として掲げていくほか、若手の人材育成をどのように行っていくべきか、研究設備を効率よく整備するためにはどうするべきか、これについては、大型の研究設備を例え作ったとしても、その維持・運用にもランニングコストがかかるといった問題もある。そして個々の大学固有の問題などもあり、それらを具体的に話し合うのがこのネットワークという場の意義」とする。

現在、同ネットワークにて動いているタスクフォースは以下の4つだという。

  1. 国際連携
  2. 国際情報発信
  3. キャリアパス
  4. コンプライアンス

同ネットワークは、決して決定事項に強制力があるわけではなく、あくまで全体的なスキームなどを話し合う場であり、その内容を各研究機関ごとに持ち帰り、独自の運用に生かしていくというものとなっている。また、決して、現在のメンバーだけで運営を行っていく、というわけではなく、ネットワークが有用である、ということが見えてくれば、参加を表明する大学も増えてくると思っているとのことで、ネットワークとしては、そうした大学が増えることを期待したいとしている。

なお、同ネットワークの会合に参加していた日本学術振興会の理事である渡邉淳平氏は、今回のネットワークについて「学術振興会は国側の組織だが、大学を中心とした研究の支援を行っている。日本は頭脳で勝負していく科学技術立国でなければいけない。そうした中で、研究力の中心となる大学という現場を見ていると、このままで大丈夫か、という心配があり、こうしたネットワークができ、それが研究力の強化に少しでもつながることになれば」と歓迎していることを表明。現時点での参加大学が22校にとどまったのは、文部科学省の予算の問題なとの兼ね合いがあったためだろうとし、「RU11はトップの大学たちが先駆けて活動してきた組織。しかし、それらトップの11大学だけで、日本の先進的な科学技術を支えきれるということは難しく、それを支えるための組織として、このネットワークが活動していってもらえれば」とした。

また、「将来的には30大学、40大学とどこまで参加大学が増加するかは不明だが、日本の科学技術を支えるという自負を持った大学たちが、新たな取り組みを開始させたことは、科学技術立国を標榜する日本が人材の面を含め、今後のテクノロジー・サイエンスの分野にとってプラスに作用するはずだ。特に現在の日本は、研究費用、人、そして研究設備、すべての問題が山積となっている。しかし、そうしたインプット部分がいかに成果物である論文というものにつながるか、というのを目で見えるようにすることは難しく、そこを根本的に見直しことを世に問うのであれば、今、現状、こういう状況で、これがこのまま進めば、こうなっていく、ということをわかりやすく、広く世間に示す必要があり、それがひいては政策にもつながってくる。同ネットワークはそうした大学の実情というところに突っ込んだエビデンスを実態を示していってもらいたい。このままでは本当に大学が駄目になるという危惧を学術振興会で仕事をしながら思っており、こうした組織で、そういった具体的な活動をしてもらうことには大きな意義があると思っている」とし、今後の活動にエールを送っていた。