農業生物資源研究所(生物研)は、東京大学医学部附属病院と共同で、ブタコラーゲンから透明性に優れた半球面形状の「アテロコラーゲンビトリゲル膜」の新素材を開発したと発表した。
同成果は、農業生物資源研究所 動物科学研究領域 動物生体防御研究ユニットの竹澤俊明 上級研究員、東京大学医学部附属病院 角膜移植部の山上聡 准教授、 東京大学医学部附属病院 眼科・視覚矯正科の特任研究員 兼 ティッシュ・エンジニアリング部 角膜再生プロジェクト プロジェクトリーダーである横尾誠一氏らによるもの。詳細は米国科学誌「Investigative Ophthalmology & Visual Science(電子版)」にて発表された。
角膜移植は古くから行われ、実績があるが、世界的に移植に必要な角膜は不足しており、日本でも年間700名程度の患者が移植を待っている状況だ。角膜移植の主な目的は、一度傷つくと自然治癒しない角膜内皮と角膜実質の交換で、中でも角膜内皮の疾病である水疱性角膜症は、角膜移植の要因の約4割を占めており、角膜内皮を培養して移植する再生医療の実現による角膜移植の早期化が期待されてきた。
これまでの研究から研究グループは、ウシのコラーゲンとウシ血清を含んだ培養液から「コラーエンビトリゲル」と呼ぶ再生医療用素材を開発していたが、実際の医療機器としての実用化の視点から、規制が厳しい反芻動物由来の原料を含まず、体内で副作用を起こさない原料から作る必要があったことから、今回、ブタのアテロコラーゲンとウシ血清を含まない無血清培養液から、医療用素材としてのコラーゲンビトリゲルを作製し、十分な透明性、半球面形状、および移植に耐えうる強度を有する角膜内皮細胞の足場素材を新たに開発したという。
同素材は、ウサギの眼への移植実験では炎症などを起こさず、透明性を維持して良好に定着することが確認されたほか、同素材を足場としてヒトの角膜内皮細胞を培養することで、角膜内皮組織を構築できることを確認。これらの結果から、アテロコラーゲンビトリゲル膜は、生体適合性に優れた角膜再生材料として利用できることが示されたと研究グループでは説明している。
なお研究グループでは、アテロコラーゲンビトリゲル膜は、強度や高分子タンパク質の透過性にも優れているため、さまざまな医療機器や医薬品の開発に活用できるとしており、今後、東京大学医学部附属病院にて角膜移植が必要となる水疱性角膜症などを治療する技術の実現を目指していくとしている。