大阪大学は9月16日、寄生虫「トキソプラズマ」病原性因子が、宿主の免疫制御分子を活性化し、自然免疫細胞を強制的に利用することが、トキソプラズマ症が重症化する理由のひとつであることを突き止めたと発表した。
同研究成果は同大学微生物病研究所の山本雅裕 教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)らの研究グループによるもので、米医学雑誌「Journal of Experimental Medicine」のオンライン版に掲載された。
トキソプラズマは国内で数千万人が感染しているとされる寄生虫の一種で、トキソプラズマ汚染肉や生野菜を不十分に洗浄せずに食べることなどによって感染する。抗がん剤投与下にある免疫不全者では致死性の脳性や肺炎などの症状が出る後天性トキソプラズマ症を発症するほか、妊婦にトキソプラズマが進入すると流産を引き起こしたり、新生児が水頭症や目の異常などを主症状とする先天性トキソプラズマ症を発病する可能性がある。
体内に侵入したトキソプラズマは腸管に達した後に、全身性に拡大していくことが知られており、その際に自然免疫細胞に潜伏感染することが重要であることが近年の研究でわかってきている。自然免疫細胞を利用して免疫系の監視を逃れることからトキソプラズマの「『トロイの木馬』現象」と呼ばれているが、自然免疫細胞に効率よく感染できる分子的メカニズムやそれに関与する病原体側因子についてはほとんどわかっていなかった。
同研究グループは、トキソプラズマが感染細胞中に分泌するGRAファミリータンパク群に注目し、それぞれの分子をマウス内に発現させ、どのような宿主因子活性化経路が反応するか、およびトキソプラズマ感染におけるその役割を調べたという。
その結果、トキソプラズマが分泌するGRA6という分子が、宿主重要転写遺伝子であるNFAT4を非常に強く活性化することが判明。活性化されたNFAT4が、免疫細胞遊走能をもつケモカインを感染局所でさらに誘導し、免疫細胞である好中球が呼び寄せられてトキソプラズマに感染、好中球を「トロイの木馬」として全身へ感染が拡大していくことがわかった。
同研究グループは「NFAT4の活性化を阻害する薬剤はすでに別の用途で発売されているため、全身性にトキソプラズマの伝播を阻止する目的でNFAT活性化阻害薬が使用されることで、トキソプラズマ症の発病をくい止める新規の治療・予防戦略の開発につながることが期待される」とコメントしている。