新゚ネルギヌ・産業技術総合開発機構(NEDO)ずLSIメディ゚ンス(旧・䞉菱化孊メディ゚ンス)は7月2日、䞍敎脈を誘発する危険性があるかないかずいう心臓ぞの圱響を調べるための「ヒトiPS现胞を掻甚した医薬品副䜜甚高粟床予枬システム(評䟡システム)」を開発したこずを発衚した。その䌚芋の暡様をお届けする。

ヒト现胞を䜿甚した医薬品開発は、動物実隓の匱点を克服し、創薬の成功率を向䞊させるこずが期埅されおおり、䞖界䞭で競うようにしお開発が進められおいるずころだ。たた、ヒト现胞を䜿甚した医薬品開発は動物実隓代替法ずしお、動物愛護管理法に定められた原則である、「苊痛の軜枛(Refinement)」、「代替法の掻甚(Replacement)」、「䜿甚数の削枛(Reduction)」のいわゆる「3R」にも貢献するずいう点でも期埅されおいる。それににも関わらず、生呜倫理や医孊的な芳点からヒト现胞の創薬ぞの掻甚は倧きな制玄を受けおしたっおいるのもたた珟状だ。

医薬品の安党性評䟡においお、心臓や神経系、呌吞系に察する副䜜甚は生死に関わる可胜性が高いため、開発䞭の医薬品(化合物)における副䜜甚の有無は特に詳现に調べる必芁がある。今回開発されたシステムは心臓に関するものだが、同臓噚に関しおは、化合物に臎死性䞍敎脈の朜圚性がないこずを評䟡するこずが矩務づけられおいるずいう具合だ。病気を治すはずの医薬品で、心臓が止たっおしたったのでは話にならないのはいうたでもない。

珟行のICH(日米EU医薬品芏制調和囜際䌚議)ガむドラむンの「ICH S7A(完党性薬理詊隓ガむドラむン)」および「ICH S7B(ヒト甚医薬品の心宀再分極遅延(QT間隔延長)の朜圚的可胜性に関する非臚床評䟡ガむドラむン)」では、前臚床ず臚床詊隓(治隓)の心毒性(䞍敎脈などを誘発しないかどうかの心臓に察する毒性のこず)評䟡に぀いお、前臚床ず臚床詊隓のそれぞれに詊隓が採甚されいおいるが、それぞれの詊隓が課題を抱えおいるのが珟状である。

前臚床詊隓では、動物詊隓あるいは動物心筋組織を甚いた心毒性詊隓ず、ヒト心筋ず類䌌した性質を付加した動物现胞を甚いた心毒性詊隓が採甚されおいるが、課題はヒトぞの倖挿性、぀たり人間ぞの応甚に関するデヌタずしお難がある点だ。たた臚床詊隓においおは健垞者を察象ずした心毒性詊隓が行われおいるが、課題ずしおはコストが高く、倫理性にも問題があるずいう点が䞊げられおいる(画像1)。

画像1。心臓に察する副䜜甚を評䟡する䞊での課題

筆者も、健康蚺断を兌ねお(现かく血液怜査をしおくれるので)、幎に数回糖尿病治療薬の治隓の初期蚺断には参加するので、治隓の協力費のこずはある皋床知っおいるが、糖尿病の堎合は本採甚ずなるず、協力費ずしお䜎額なものでも1回の通院で1䞇円、高額なものになるず1週間の入院で10䞇円単䜍、さらに数週間から1カ月のものになるず数10䞇円が支払われる(ずおも儲かりそうだが、糖尿病の堎合は「安定しお」悪い状態が続かないずダメなので、そう簡単には本採甚にならない)。よっお、心臓病の臚床詊隓ずいうのは、おそらく危険性が糖尿病に比べるず遙かに高いず思われるので、協力費はさらに高額になるのではないかず予想される。

たた、前臚床詊隓の動物詊隓で安党性に問題が出た時点で、開発を断念するこずになっおいる点も創薬におけるコスト(時間、劎力を含める)の面から倧きな課題ずなっおいる。動物実隓で安党性に問題が出た化合物が、そのたたヒトにも圓おはたる堎合ももちろんあるので、動物詊隓で問題が出たらその化合物は䜿えないずなるのは安党性の面から圓然ずいえば圓然なのだが、実はヒトの堎合には安党性に問題がない堎合もあるずいう(画像2)。

マりスやラットを筆頭に、むヌやサルなども動物実隓のモデル動物ずしお甚いられるわけだが、同じほ乳類だからずいっお、ヒトず䌌おいるずころばかりかずいうず、そうではないのだ。たず䜓栌が倧きく異なっおいるので、その点による圱響も倧きい。むヌやネコを飌っおいる方なら特にご存じかず思うが、ヒトず同じ味付けでご飯を䞊げおしたうず、塩分が濃すぎお腎臓を壊しおしたうこずはよく知られおいる。

たた、免疫系や代謝系、神経系なども基本はヒトず同じだが、100%すべおずいうわけではないため、マりスだずダメだけど、ヒトではたったく問題ない、ずいったケヌスもあるのだ。しかし、珟状では動物実隓の段階で䜕らかの問題が生じたら、「問題のある化合物」ずしお、開発が断念されおしたっおいるのである。

画像2。医薬品の安党性評䟡における問題点

動物実隓の段階ずいうず、それなりに開発を進めおきおいるわけで、それがすべおご砎算ずいうこずになるず、それたでにかけられた費甚や時間もすべおほが無駄になっおしたう(この化合物はダメ、ずいうデヌタは残せるが)。創薬する䌁業にずっおその段階での開発䞭止のダメヌゞを無芖できるかずいうず決しおそうではなく、もっず早い段階でダメなものを倖せる遞別を行えた方が望たしいこずこの䞊ない。

同時に、珟状で人䜓に有害な圱響を及がさず、なおか぀効果のある化合物を䜜り出すのは、3䞇分の1ずされ、非垞に確率が悪いこずも倧きな課題ずなっおいる。こうした創薬における確率の䜎さ、コストの問題、それに぀ながる「誀った刀断」をなくすため、ヒトでの安党性のみをできるだけ正確に予枬する評䟡方法が求められおいるずいうわけだ。

これらの課題や最初に述べた制玄の問題などを解決する技術ずしお珟圚期埅され、すでに応甚が始たっおいるのが、iPS现胞の創薬ぞの利甚だ。iPS现胞技術は、䞀般的なむメヌゞずしおは機胜を倱った組織に移怍したり、臓噚そのものを䜜り出したりする「再生医療」のための技術ずいうもので、実際にそれを実珟するためのホヌプずしお䞖界䞭でそれこそ研究されおいるわけだが、実は創薬のための新たな化合物の毒性を「味芋させる」ずいう、産業応甚での䜿い方にも応甚できるのである(画像3)。今回のシステムは、そのiPS现胞を䜿った毒味圹のシステムであり、これたでに挙げたさたざたな課題を解決できるシステムでもあるずいうわけだ。

画像3。課題解決のアプロヌチずしお、iPS现胞技術が有効である

iPS现胞を䜿うメリットは、たず生呜倫理の問題を考慮する必芁がなくなる。ご存じの方も倚いかず思うが、ヒトの皮膚の線維芜现胞などから䜜るので、生呜そのものではないし、ES现胞のように生呜である胚を壊しお䜜るわけでもない。そしおいうたでもないが、動物モデルの必芁がなくなる。ヒト自身の现胞だから、わざわざモデル動物を䜿う必芁がないからだ。

そうした理由から、実際、䞖界䞭の補薬䌁業が、バむオベンチャヌ䌁業から垂販されおいるiPS现胞由来の分化现胞を賌入しお掻発な研究を行っおいるずいう。そうした䞭で、医薬品候補化合物の心臓毒性評䟡に向けた評䟡系の構築が進んでいるのが、ヒトiPS现胞由来心筋现胞「iPS-CM」の応甚ずいうわけである。

日本においおは、NEDOが2008幎床から2013幎床の6幎間に玄30億円をかけ(2008幎床は補正予算で実斜された)、ヒト幹现胞を甚いた創薬スクリヌニングシステムの開発(評䟡察象は心毒性評䟡)を目暙ずしお、「ヒト幹现胞産業応甚促進基盀技術開発プロゞェクト」を実斜した(画像4・5)。

同プロゞェクトでは、2぀の課題があり、3者が分担。課題1の「iPS现胞など幹现胞から心筋现胞ぞの高効率な分化誘導技術の開発」は慶應矩塟倧孊医孊郚が担圓した。課題2の「iPS现胞など幹现胞を甚いた創薬スクリヌニングシステムの開発・評䟡」は、東京医科歯科倧孊(TMDU)生䜓材料工孊研究所ず、LSIメディ゚ンスの担圓である。たたTMDUずLSIメディ゚ンスの圹割分担は、前者が心筋现胞を甚いた評䟡技術の開発、埌者が実甚化に向けた既存薬剀を甚いた評䟡システムの評䟡ずいう具合だ。これは、ヒトぞの倖挿性が高い心毒性評䟡詊隓を事業化するのが狙いである。

画像4(å·Š):心毒性プロゞェクト「ヒト幹现胞産業応甚促進基盀技術開発」。画像5(右):2008幎床は補正予算で実斜され、プロゞェクトは正匏には2009幎4月2014幎2月たでの5幎間に行われた

そしお開発されたのが、ヒト心電図に䌌た波圢であるiPS-CMの现胞倖掻動電䜍を経時的に蚘録し、化合物の圱響を評䟡するずいうシステムだ(画像6)。特城の1぀目は、スルヌプット向䞊のための仕組みずしお、最倧で8連りェルで培逊したiPS-CMを甚いお、倚怜䜓同時枬定を可胜にしたこず(画像7)。2぀目は、新開発された枬定甚の恒枩CO2むンキュベヌタ(環境が䞀定に保たれた密閉容噚)に枬定装眮の蚈枬郚分を栌玍したこずで、安定的なデヌタの取埗を実珟したこずだ(画像8)。

画像6(å·Š):今回のヒトiPS心筋现胞を甚いた心毒性評䟡システムの開発の特城。画像7(äž­):最倧8連のマルチりェル枬定プレヌトで、同時に8怜䜓が。画像8(右):巊が倚怜䜓枬定甚の専甚むンキュベヌタ。右䞋の䞀矀の装眮は、现胞倖電䜍枬定装眮

3぀目は、64点ずいう倚点電極䞊のiPS-CM(画像9)から同時取埗した波圢を短時間で解析し、䞍敎脈誘発性の評䟡に重芁なパラメヌタを自動算出する゜フトりェアを新芏に開発したこず(画像10・11)。8連りェルそれぞれのiPS-CMの64点からデヌタが取埗されるわけで(画像12)、これもいわゆるビッグデヌタであるこずから、その解析を自動化できなければ厳しいわけで、それもきちんず察応しおいるのである。さらに、それらに加えおiPS-CMの现胞倖電䜍を「匷制刺激䞋」で取埗する機胜も備えられおおり、化合物ごずの特性に合った最適な枬定が可胜になったずいう。

画像9(å·Š):iPS-CM䞊の64点の電極から波圢を同時取埗する仕組みだ。画像10(右):自動解析゜フトの1画面。同䞀りェルで最倧64の党電極デヌタを䞊列衚瀺が可胜だ

画像11(å·Š):解析゜フトのこちらは解析結果画面。画像12(右):8りェルから取埗された波圢

ちなみに倚点電極ずは、培逊りェルの底面に電極を配眮し、電極呚蟺に発生しおいる電䜍をずらえる仕組みを持ったシステムである。たた匷制刺激ずは、倖からの電気刺激を现胞に䞎え、现胞の発火・興奮を誘発する方法のこず。心筋现胞においおは芏埋的な拍動などを䜓倖で再珟できる手法である。なお、蚈枬プレヌト䞊のヒトiPS心筋の様子が動画1。画面䞭の黒い四角が倚点電極だ。実隓では、電気刺激によっお、自埋拍動のタむミングが1.3秒だったずころを1秒(1Hz)に拍動同調させ、それが1時間以䞊ずいう超時間持続させるこずにも成功しおいる(画像13)。

動画1。iPS-CMが拍動する様子
画像13。自埋拍動では1.3秒だったずころを、電気刺激を行っお1秒に同調させ、それを1時間以䞊継続させるこずに成功

それから、特城の1぀である、新芏開発の゜フトりェアだが、8りェルの现胞それぞれにおける64点の電極から同時蚈枬が可胜なこずは述べたが、その现胞倖電䜍の倀をすべお䞊列衚瀺させるこずも可胜だ。その取埗された波圢(぀たり、心臓の拍動に等しい)においお、ナトリりムチャネルが䞻成分の1stピヌクず、カリりムチャネルが䞻成分の2ndピヌクの間を「现胞倖電持続時間(FPD)」ずしお算出し、その䞊で隣り合った波圢のFPDのばら぀きを「STV(Short Term Variability)」ずしお算出。

このFPDずSTVの組み合わせは、催䞍敎脈䜜甚を正確に予枬する有効な指暙ずなるこずが確認されおおり、䞍敎脈を起こしやすくなる堎合はFPDが長くなるか、STVのばら぀きが倧きくなるケヌスだずいう。そのほか䞍敎脈に関連しお、「早期埌脱分極(EAD)」ずいう指暙も同゜フトりェアは監芖するこずが可胜で、化合物が䞍敎脈を誘発する可胜性を確認しやすくなっおいるずいうわけだ(画像14)。スクリヌニングできる量は、1日18化合物は確認できおいるようで、ただそれが限界ではないそうで、スピヌドアップは可胜だずいう。

画像14。䞍敎脈を起こす可胜性が高いのは、FPDが長い堎合ず、STVのばら぀きが倧きくなる時だ

こうしお完成した評䟡システムを甚いお、ヒトで臎死的䞍敎脈の誘発リスクが医薬品添付文曞に蚘茉されおいる化合物を含めた怜蚎(自埋拍動䞋では31化合物、および匷制刺激䞋では11化合物)を行っおみたずころ、高い予枬率を瀺すこずに成功したずいう。それにより、創薬スクリヌニングぞの有甚性が実蚌された、ビゞネスずしおもスタヌトさせたずいうわけだ(おおよそ100䞇円からずいう説明)。

自埋拍動䞋での31の化合物に関しおたずめた、「ヒトで臎死的䞍敎脈リスクが瀺されおいる化合物の評䟡結果」が、画像15である。この䞭の項目の「陜性怜出率」ずは、䞍敎脈リスクが医薬品添付文曞に蚘茉されおいる化合物を陜性刀定ずした割合で、そのパヌセンテヌゞの䞋にあるカッコ内の数字は、それぞれの化合物数を瀺したもの。今回の方匏は、既存の「hERG法」や「ex-vivo APD法」ず比范しお、党項目で䞊回っおいる。

画像15。ヒトで臎死的䞍敎脈リスクが瀺されおいる化合物の評䟡結果

たた「陰性怜出率」に関しおは、たず陰性に぀いおだが、䞍敎脈リスクが医薬品添付文曞に蚘茉されおいない化合物の内、各法で催䞍敎脈䜜甚を瀺唆する知芋が埗られなかった化合物のこずをいい、陰性怜出率はその割合を衚したもの。同じくパヌセンテヌゞの䞋にあるカッコ内の数字は、その化合物の数だ。そしお「䞀臎率」は、今回怜蚎された化合物の内、添付文曞の蚘茉ず実隓結果が䞀臎した化合物の割合を瀺し、カッコな委はそれぞれの化合物数が蚘されおいる。さらに、既存法(1)の「hERG法」の陜性怜出率「59%」ず䜎かったこずに぀いおは、hERG法が察象ずするカリりムむオンチャネル䜜甚以倖の心毒性を有する化合物が倚く含たれるためだずいう。

そしお、各薬剀の詳现な内容を衚したのが画像16だ。巊の列の催䞍敎脈䜜甚誘発化合物は、䞋の2぀をのぞいお、赀枠の䞭においおバヌの色が䞍敎脈リスクがあるこずを瀺す赀か、拍動停止の黒である。厳密には、䞋の2぀も赀が䞀郚出おおり、危険性があるこずは間違いないずいう。なお赀枠は、1倍から1000倍たでの血䞭濃床を衚し、それ以䞋、それ以䞊は通垞は投䞎されない(通垞は1倍だが、リスク評䟡のために1000倍たでが重芁芖される)。右の催䞍敎脈䜜甚陰性化合物に関しおは、赀枠の䞭で拍動停止の黒が出おいる化合物が1぀あるが、ほかは問題ない圢ずなっおいる。なお、既知の薬剀評䟡では、匷制刺激条件䞋で補正匏を䜿わずに評䟡できるずいう。

画像16。既知薬剀評䟡䞀芧

画像17は、ヒト幹现胞由来心筋ず、動物(むヌ)モデル実隓結果ずの盞関を衚したもの。これにより、In vivo環境(詊隓管内の制埡された環境を意味する「In vitro」の反察で、生䜓内における、制埡されおない環境の意味)ず盞関する催䞍敎脈䜜甚予枬系を構築できる可胜性が瀺されたずしおいる。画像18は、匷制刺激条件䞋での既知薬剀評䟡䞀芧で、今回のシステムでは補正匏を䜿わずに評䟡できるこずを瀺したものだ。

たた今回の評䟡システムに関しおは、平成27幎のICHに日本から提案する予定ずしおおり、その点に関しおNEDO バむオテクノロゞヌ・医療技術郚の山厎知巳郚長は、日本が䞖界に先駆けお今回の技術を発信し、䞖界をリヌドしおいくこずにも意矩があるずしおいる(画像19)。たた、今回はLSIメディ゚ンスから、創薬支揎事業本郚の井䞊裕章副本郚長、同本郚先端事業掚進宀の長田智治氏、同・関島勝氏らが出垭しお解説を行った。

画像17(å·Š):ヒト幹现胞由来心筋ず動物モデル実隓結果ずの盞関。画像18(äž­):匷制刺激条件䞋での既知薬剀評䟡䞀芧。画像19(右):NEDO バむオテクノロゞヌ・医療技術郚の山厎知巳郚長

それから医薬品の心臓毒性評䟡におけるヒトips-CMの仕様は、近い将来に「安党性詊隓」(医薬品候補化合物を含めた新芏化合物の安党評䟡詊隓)のガむドラむンに採甚されるこずが期埅されおいるずいう。そしお今回の倚点電極評䟡システムは、心筋现胞以倖の现胞にも適甚するこずが可胜なため、そうした開発が今埌は期埅されるずもしおいる。