国立天文台は7月3日、アルマ望遠鏡を用いた観測から、星が誕生する現場では、ゆっくりと星の卵となるガス雲が収縮して星が生まれるという従来のイメージではなく、ガスの塊がダイナミックに運動していることを確認したと発表した。
同成果は、大阪府立大学大学院 理学系研究科 博士後期課程1年の徳田一起氏、同 大西利和 教授、国立天文台チリ観測所の西合一矢 特任助教、同 河村晶子 特任准教授、名古屋大学大学院 理学研究科の福井康雄 教授、同 犬塚修一郎 教授、同 立原研吾 准教授、法政大学 人間環境科学部の松本倫明 教授、九州大学理学研究院の町田正博 准教授、プリンストン大学/東京大学 日本学術振興会特別研究員の富田賢吾氏らによるもの。詳細は6月11日発行の天文学専門誌「The Astrophysical Journal Letter」に掲載された。
星は、宇宙に漂うガスや塵が集まり、約0.1光年の範囲に太陽数個分の質量をもつガスが含まれているガスと塵の集合体「分子雲コア」の中心部にガスや塵が濃く集まることで、星の赤ちゃんである「原始星」が誕生すると考えられているが、原始星の周囲でどのようにガスや塵が分布しているか、あるいは原始星が生まれる瞬間にガスや塵がどのように分布し、どのような動きをしているかについては良く分かっていなかった。
今回、研究グループでは、アルマ望遠鏡を用いて誕生直後の原始星が含まれる分子雲コア「MC27」(地球からの距離は約450光年)の中心部に含まれる塵が放つ電波と高密度ガス中のHCO+分子が放つ電波を観測することで、そうした謎の解明に挑んだ。
観測の結果、中心部には原始星を取り巻くガスのほか、原始星から200天文単位の場所にガスの塊「MMS-2」を発見することに成功したという。MMS-2は、1立方cmあたりに含まれるガス分子が数千万個と、これまで小質量星形成領域で発見された分子雲コアとしては最も密度が高いものであることが判明。研究グループでは、これは原始性が形成される直前の段階の状態であると説明する。
また、原始星自体からも噴き出すガス流を発見することに成功したという。調査の結果、このガス流はほかの原始星のまわりで見つかっているものよりも小さなもので、その広がりと速度から、このガス流は数十年から200年前に原始星から噴き出したものであることが判明し、この結果、同じ領域に、生まれたばかりの原始星と星のたまごが同居していることが確認されたこととなった。
さらに、MMS-2から尾のように2000天文単位ほど伸びたガス雲の存在も確認したほか、分子雲コアとは少し異なる速度を持っていることも確認したという。研究グループでは、こうした細長い弓型の構造をしたガス雲について、「高速で移動する2つ以上の分子ガス塊がそれらの間に働く重力により強く相互作用することによってできると考えられる」との見方を示し、ガスが無秩序に動き回る乱流を起こし、生じた無数の小さなガス雲同士が影響し合うといった、激しい運動の結果、生じたのではないかと説明している。
実際に、こうした激しい乱流が起きているガス雲の様子をコンピュータシミュレーションで調べたところ、小さなガス雲が互いにまわりあいながらそれぞれの中で星が生まれ、最終的に複数の星が互いを回りあう多重星系が作られることがある、ということがわかったとのことで、今回の観測結果がそうした多重星が形成される現場をとらえた可能性があるとする。
なお研究グループでは、今後もMC27を詳細に観測していくほか、ほかの分子雲コアもアルマ望遠鏡で観測することで、星形成のメカニズムや過程をより詳しく理解できるようになるとコメントしている。
乱流の中で進む多重星形成のコンピュータシミュレーション。生まれたばかりの複数の星が複雑に運動し、その影響が波紋のように広がって弓状の構造を作る様子が見て取れる。シミュレーションは、約2万7000年間のガスの運動を計算したもので、映像の横幅は約3000天文単位に相当するという (C):松本倫明氏(法政大学) |