国立がん研究センター(国がん)は7月2日、乳がんの特徴である術後長期間を経ての再発、転移について、骨髄中の間葉系幹細胞が分泌する微小な小胞エクソソームが乳がん細胞の休眠状態を誘導していることを明らかにしたと発表した。
同成果は、研究所分子細胞治療研究分野の小野麻紀子研究員、同 落谷孝広 分野長らによるもの。詳細は、米科学誌「Science」の姉妹誌である「Science Signaling」(電子版)に掲載された。
乳がんは、手術をしても、その10年後や20年後でも再発や転移する場合があることが知られている。この仕組みとして、がん細胞の発生の大元であるがん幹細胞がはじめて発生した時に骨髄に移動し、増殖もせず休眠状態になり、長い年月を経て再び目覚めるためと考えらえているが、どのようなメカニズムで休眠状態になり、また目覚めるのかはよく分かっていなかった。
今回の研究では、、骨髄中に存在する間葉系幹細胞が分泌する直径100nmの顆粒(エクソソーム)によって一部の乳がん細胞が幹細胞様の性質を獲得し、休眠状態になることが確認されたほか、間葉系幹細胞由来のエクソソームに含まれるマイクロRNAが、乳がん細胞へ受け渡され、乳がん細胞の遺伝子発現を変化させることで、休眠状態を誘導する要因の1つとなりうることが確認されたという。
また、乳がん患者骨髄中で、乳がん細胞と間葉系幹細胞が隣接して存在することも確認。骨髄中に潜伏するがん細胞では原発巣のがん細胞と比較して、休眠状態を誘導するマイクロRNA量が増加傾向にあることも証明したとする。
今回の結果を受けて研究グループでは、骨髄中にある、あらゆる血球細胞になることが可能ながら基本的には休眠状態となっている造血幹細胞と同様に乳がん細胞も周囲の細胞からのエクソソームを利用して休眠状態を誘導、維持している可能性が示されたとしており、将来的には、例えば、間葉系幹細胞からのエクソソームの供給経路を断ち切る新規薬剤を開発し、骨髄中で乳がん細胞が休眠状態になることを打破し、抗がん剤耐性を克服するといった、新たな治療法の確立ヘの道を拓くことが期待されるとコメントしている。