物質・材料研究機構(NIMS)は6月23日、有機エレクトロニクス材料分野の重要技術とされるπ共役系分子の自己組織化のタイミング、および得られる構造・機能を容易に制御できる技術を開発したと発表した。

同成果は、NIMSの中西尚志独立研究者、Martin J. Hollamby研究員(現イギリス・キール大学講師)らによるもの。大阪大学、産業技術総合研究所(産総研)、ポーランド・ワルシャワ工科大学、オランダ・アインドホーヘン工科大学、フランス・マックス-フォン-ラウエ-ポール-ランジュバン研究所、イギリス・ブリストル大学およびドイツ・マックスプランク-コロイド界面研究所の研究者らと共同で行われた。詳細は、英国科学雑誌「Nature Chemistry」のオンライン版に掲載された。

有機エレクトロニクス材料の開発において、分子同士が自発的に組織立って配列する自己組織化は重要なプロセスである。しかし、有機エレクトロニクスの主要な分子材料とされるπ共役系分子はその強い分子凝集力のため、自己組織化の際に、適切な分子の並び方や最終的に得られる構造を精密に制御することが難しい。また、自己組織化させるタイミングに関しても、簡便で有用な方法が開発されていなかった。今回の方法では、これらの問題を解決し、π共役系分子において、一般的に適用できる分子設計、および自己組織化技術の概念を見出した。

まず、π共役系分子の代表例であるフラーレン(C60)に、分岐したアルキル鎖を結合させた。つまり、あたかも界面活性剤(石鹸分子)の親水部がC60に置き換わったような分子となっている。この分子は室温で液状であるが、自身の一部分(パーツ)であるC60を添加すると、自己組織化して多層シート構造を形成した。逆に、もう片方のパーツであるアルキル鎖を添加すると、球状ミセルもしくはファイバ状構造を形成した。つまり、この分子の異なるパーツを添加するだけで、自己組織化の起こるタイミングを制御し、得られる構造体も容易に制御できた。この現象は、π共役系部位がC60以外の分子でも確認されており、π共役系分子一般に適用できる自己組織化の新たな技法と言えるとしている。

自己組織化に用いるπ共役系分子を常温液体にしておけば、予めさまざまな形状の基材表面に直接塗布できる。その後、タイミングを図って分子パーツを添加することで、その場で自己組織化が可能となる。組織化して得られた多層シート状、あるいはファイバ状の構造体は、C60に由来する光導電性を示すことから、用途に合わせて必要な構造体の選択を行うことができる。今回の成果は、目的に合わせた有機エレクトロニクスデバイスなどの作製を可能する新たな自己組織化技法として広範囲にわたり、応用が期待できるとコメントしている。

図1 液状のアルキル-π共役系分子の自己組織化および光導電性制御の典型例。(a)今回の研究で用いたアルキル-C60分子の化学構造、(b)アルキル-C60分子の写真(無溶媒下、室温で液状)、(c)C60添加後の多層シート構造の高分解能TEM像(画像中の濃いスポットは配列した個々のC60部位に相当)および模式図、(d)アルキル成分としてデカン溶媒を添加後のミセル構造の低温高分解能TEM像および模式図、(e)ヘキサン溶媒添加で得られるファイバ状構造の模式図(棒状ミセルがヘキサゴナル状に組織化し、さらにバンドル化してファイバゲル化、黒塗り円部分はC60ナノワイヤの断面に相当)