理化学研究所(理研)は5月27日、超薄板ガラスの柔軟性を利用したガラス製マイクロ流体チップ内電動ポンプを開発したと発表した。
同成果は、同所 生命システム研究センター 集積バイオデバイス研究ユニットの田中陽ユニットリーダーによるもの。詳細は、スイスの科学雑誌「Micromachines」のオンライン版に掲載された。
ガラス製のマイクロ流体チップは、数cm角のガラス基板上に幅・深さ1mm以下の流路を形成し、化学・生化学のプロセスを集積化したものである。ほとんどの溶媒・溶質に対して安定なため、医療診断向けの小型・高速反応の次世代型バイオデバイスとして期待されている。しかしガラスは硬いため、その中に流体を制御するバルブやポンプをガラスで作製して組み込むことはできず、流路をマイクロレベルで集積できるメリットが十分に生かせなかった。
一方、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂で作製されたマイクロチップは、柔軟でありバルブやポンプの組み込みが容易だが、有機溶媒や気体と反応しやすいという難点があり、高度な表面化学処理が必要な細胞のパターニングなどには物理的安定性、化学的安定性の面で不向きだった。
そこで、超薄板ガラスでバルブを作製し、すべてがガラス製のマイクロ流体チップを実現した。超薄板ガラスは、厚さが10μm以下と極めて薄いため、ガラスにも関わらず柔軟性が高く、割れにくいという特徴を持っている。
今回、ガラスバルブを4つ直列に並べて、コンピュータ制御のアクチュエータを使ってピンを高速で動かし、チップ内の液体を絞り出すように駆動するペリスタルティックポンプ形式のマイクロ流体チップ内電動ポンプを開発した。実証実験の結果、ガラスポンプはさまざまな溶液に対して安定に機能した。また、流量はアクチュエータの周波数に比例し、最大で毎分0.80μlだった。これは、分析や細胞培養などによく使われる流量の範囲にあるという。
開発したマイクロ流体チップ内電動ポンプは、さまざまな溶液に対して安定であり、ガラスバルブと組み合わせて用いることで、汎用的な集積化学システムに応用できる。特に、医療診断、細胞操作、分子合成などの分野で有用なツールとなると期待できるとしている。