東北大学は5月21日、全固体電池のための新しいリチウムイオン伝導体KI-LiBH4を開発したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学研究科の高村仁教授、宮崎怜雄奈博士(現 物質・材料研究機構 研究員)らによるもの。詳細は、「APL Materials」に掲載された。

リチウムイオン電池は、動作電圧が約3.8Vと高いことから、電解質に耐電圧の高い有機溶媒が使用されている。これらは可燃性であり、発火・破損事故が報告されている。そこで、有機溶媒に代わり固体電解質を用いて安全性を高めた全固体電池の開発が行われている。電池が不揮発性・不燃性の固体材料のみで構成されれば、安全性の大幅な改善が見込まれ、電極材料や電池形状の自由度も向上する。

今回の研究では、従来から知られている酸化物系や硫化物系の固体電解質に比べて飛躍的に成形性が高く、電極材料と良好な接触性を示す水素化物系固体電解質「LiBH4(水素化ホウ素リチウム)」に着目。これまでに、LiBH4は115℃以上で安定な高温相においてLi+イオンが高速で移動できることが知られており、高容量負極材料であるLi金属と良好な界面を形成し全固体電池の高出力密度化を実現しうる電解質として注目されている。

しかし、高いLi+イオン伝導を示すLiBH4高温相ではイオンの2次元的な伝導が示唆されており、結晶のある方向ではイオン伝導性が低く電極反応に寄与できない可能性がある。そこで、Li+イオン伝導において異方性を示さない等方的な岩塩型構造のLiBH4に着目して新規材料を開発したという。

岩塩型構造のLiBH4は200℃以上、かつ4万気圧以上の極限状態でのみ存在する。従って、固体電解質として応用するためには、その高温高圧下の岩塩型構造を常温常圧でも安定化させることが求められる。そこで、岩塩型構造が常温常圧で安定であるKI(ヨウ化カリウム)中にLiBH4をドープするという、従来とは逆転の発想により岩塩型構造のLiBH4の合成に成功した。

今回、同じ結晶構造を有する全く異なる化合物に目的化合物をドープした。この手法は水素化物系のみでなく、他の材料系についても応用可能なアイデアであり、未だ構造安定化が実現されていない高イオン伝導性材料を得る新しい視点を提供するとコメントしている。

KI-LiBH4系の格子定数