健康によいとされる和食もこの半世紀に大きく変化してきた。いつのころの和食がベストなのだろうか。現在と過去の和食の比較試験によって、1975年ごろが長寿や健康維持に最も有効であることを、東北大学大学院農学研究科食品化学分野の都築毅(つづき つよし)准教授らがマウスで実証し、3月末の日本農芸化学会(東京)や日本薬学会(熊本)で発表した。
日本は世界一の長寿国で、食事の効果がその理由のひとつと考えられている。研究グループは、現代と過去の和食をマウスに摂取させ、最も健康に良い和食を探したところ、1975年ごろの和食は、内臓脂肪の蓄積や、加齢に伴う脂質代謝調節機能低下を抑制し、健康へのメリットが高いことを明らかにしてきた。
今回の研究では、マウスの寿命や脳の学習記憶能に与える影響を調べた。栄養管理士の指導を受けて、日本の国民・栄養調査に基づき、1960年、75年、90年、2005年のそれぞれ1週間21食分の和食の献立を再現し、調理したものを凍結乾燥・粉末化した。それを通常のえさに混合して老化促進モデルのマウスに食べさせた。その結果、75年ごろの和食を食べたマウスは最も老化が遅れて長寿だった。さらに、75年ごろの和食は学習記憶能の維持にも有効で、がんの発生率も低かった。現代に近づくほど食事の健康有益性は薄らいで、60年ごろの食事まで逆戻りしていた。
家庭で食べる平均的な和食は、欧米食の影響を受けながら様変わりしてきた。60年ごろは、ごはんが多くておかずが少なかった。75年ごろは日本の伝統的な食材の魚介類や大豆などに加えて、食品の流通も進み、多様な食材を使えるようになった。90年ごろから現代にかけては、欧米食の影響を受けすぎて、伝統的な和食の良さが失われてきたといえる。
都築准教授は「単一の食品成分ではなく、時代とともに変わってきた食事まるごとの影響を調べることが重要だ。『昭和50年代の平均的な和食が健康に良かった』という見方はこれまでもあったが、実験的な根拠を示したのはこの研究が初めてだと思う。食事面からだけ見ると、長寿の和食効果を最も受けているのは今、70歳ごろになっている世代だろう。健康長寿のためには、食事の過度な欧米化は避けて、伝統的な和食の価値を見直し、魚介類や野菜を多く食べるなど、食材の種類も増やすことが望ましい」と話している。