金沢大学は、核磁気共鳴装置や人工膵臓の技術を用いて、臓器(肝臓・骨格筋・脂肪組織)ごとの脂肪化とインスリン抵抗性をヒトで精密に検査する手法を確立し、肝臓の脂肪量が肝臓自体のインスリン抵抗性だけでなく、肝臓と離れて存在する骨格筋のインスリン抵抗性と強く関連することを見出したと発表した。

同成果は、同大医薬保健研究域医学系の篁俊成 教授、金子周一 教授らによるもの。詳細は、米国科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。

肥満やメタボリックシンドロームの状態では、単純に脂肪組織の量が増えるだけでなく、本来脂肪が蓄積しない肝臓や骨格筋などの臓器でも脂肪蓄積が増えること、また臓器の脂肪化がさまざまな生活習慣病の基盤となるインスリン抵抗性(≒メタボ体質)と関連することが知られている。また、肝臓の脂肪量を知るための一番正確な検査である「肝生検」は、検査入院が必要であったり、検査に伴う合併症のリスクがあることなどがあり、インスリンが働く臓器(肝臓・骨格筋・脂肪組織)ごとの脂肪蓄積量、臓器ごとのインスリン抵抗性を精密かつ安全に検査する手法の確立が求められていた。

今回、研究グループは、核磁気共鳴装置(NMR)を用いたMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)検査で肝臓と骨格筋の脂肪量を測定すると、正確に肝細胞内の脂肪蓄積を反映できることを確認したほか、生体電気インピーダンス法による体全体の脂肪組織量測定、ならびに人工膵臓を用いたグルコースクランプ検査で、肝臓、骨格筋、脂肪組織の臓器別のインスリン抵抗性測定を行った結果、肝臓の脂肪蓄積が多いほど、肝臓および骨格筋のインスリン抵抗性が強いことや、骨格筋の脂肪量は、骨格筋、肝臓、脂肪組織、いずれの臓器のインスリン抵抗性とも関連しないこと、体脂肪量は脂肪組織のインスリン抵抗性と関連しないことなどを見出したとする。

なお、研究グループでは、これまでに同定した2つのの肝臓由来分泌タンパク「ヘパトカイン」が骨格筋のインスリン抵抗性をはじめとするさまざまな疾患の原因になっている可能性があると考えており、ヒトにおいても、肝臓から分泌されるヘパトカインが骨格筋のインスリン抵抗性の原因となっている可能性があるとし、今回の研究成果などから、肝臓と他臓器間のネットワークに関わる新たな因子の解明が進むことで、糖尿病やメタボリックシンドロームに対する新たな治療法の確立につながることが期待されるとコメントしている。

肝臓の脂肪化のみが自身と他臓器のインスリン抵抗性と関連する。肝臓と骨格筋を結ぶネットワークの存在が示唆されたという