産業技術総合研究所(産総研)は3月17日、面発光マイクロLED励起光源、およびa-Siシリコンフォトダイオードに光学干渉フィルタを一体的に集積した蛍光検出センサから構成される超小型蛍光検出デバイスを開発したと発表した。

同成果は、同所 集積マイクロシステム研究センター ライフインターフェース研究チームの亀井利浩研究チーム長、住友慶子特別研究員らによるもの。詳細は、3月17~20日に青山学院大学 相模原キャンパスで開催される「第61回応用物理学会春季学術講演会」にて発表される。

開発した超小型LED励起蛍光検出装置の外観(40mm×40mm×20mm)

近年、その場で高速に診断できる利便性、簡易性からPOC診断が注目されている。中でも、糖尿病患者の血糖センサは商業的に成功を収め、市場も急成長している。POC診断は、疾患の予防、健康の増進、生活の質の維持、医療費の削減、在宅医療などに寄与するため、今後、ますます発展すると期待されている。POC診断は、医療従事者が実施する簡易診断、および患者自身が在宅で実施する健康モニタなどの自己診断が含まれるが、いずれの場合にも、可搬性、迅速性、簡便性が要求される。

微少量の流体を操作可能なマイクロ流体バイオチップ技術は、少量の試料で高速診断が可能であり、POC診断を実現するために理想的な特徴を備えている。また、マイクロ流体バイオチップを用いた、遺伝子、タンパク質、コレステロールなどの生体分子解析に基づく疾患の診断システムの開発が進められており、微少量の血液などの試料から迅速、簡便に診断することが可能となっている。しかし、微少量の試料から分析するため、高感度な共焦点レーザ励起蛍光顕微鏡のような大型の装置が用いられており、マイクロ流体バイオチップは小型だが、分析装置は依然として大型なままである。

産総研では、この大型な分析装置をPOC診断や着用可能(ウェアラブル)な健康モニタリングデバイスなどの現場に持ち込むことができるサイズまで集積化、小型化する開発に取り組んできた。これまで、半導体微細加工技術により、アモルファスシリコンフォトダイオード上に光学干渉フィルタを一体的に集積した蛍光検出センサを開発しており、外部励起光源を用いた実験において、PCRと組み合わせることで、DNAを一分子レベルで検出できる検出限界を実現している。a-Siは、バイオ分析に使われる実用的な色素のほぼすべての蛍光波長帯域で、高効率に光を電流に変換させることができ、ノイズも少ないため、冷却せずに、蛍光を高感度に検出できる。しかし、本当の意味での集積型蛍光検出デバイスを実現するためには、励起光源の集積化、実装が必要であり、今回、安価な面発光マイクロLEDを用いて、超小型蛍光検出装置を開発したという。

(A)集積型蛍光検出センサを用いたマイクロ流体バイオチップ分析システムの断面図、(B)センサ部の上部からの光学顕微鏡写真

今回開発した蛍光検出モジュールの大きな特徴は、励起光源と集積型蛍光検出センサをマイクロ流体バイオチップに対して、同側に、かつ、同軸に配置している点にある。これは、可視光に対して透明であるガラス基板上に蛍光検出センサを作製できること、および、その中央に励起光を導入するためのピンホールを形成したことで可能となった。また、励起光源として採用したLEDは、半導体レーザの1/1000程度の価格で、低コスト化に有利であるが、光の指向性が低く、集光することが難しい。集積型蛍光検出装置には、従来法(共焦点レーザ励起蛍光顕微鏡)で採用されているピンホールによる散乱光遮蔽機能がないため、励起光をマイクロ流体バイオチップ内のマイクロ流路幅以内に集光し、マイクロ流路側壁からの散乱を抑制することが重要である。散乱光は、蛍光検出素子のバックグラウンド光電流となり、検出システムのノイズレベルは、このバックグラウンド光電流に重畳するノイズレベルで決まるため、検出システムのノイズレベルを下げるには、散乱光を抑制するしかない。

そこで、LED発光面の小型化および非球面マイクロレンズの採用により集光スポットを小さくした。サイズが250μm×300μmの面発光マイクロLEDからの光を非球面マイクロレンズにより短焦点(5mm)で190μm×230μmサイズに集光することに成功し、バイオ分析に必要な光量を確保しながら、マイクロチャネルへの低散乱光照射を実現した。さらに、小型のLEDを用いることにより、100μm以下に集光することもできるという。

今回開発した超小型LED励起蛍光検出装置と、流れ方向に沿ったマイクロ流路の断面構造を確認すると、面発光マイクロLEDから放出された光は非球面マイクロレンズにより集光され、励起光用光学干渉フィルタにより、特定の波長領域の光のみを選択的に取り出し、集積型蛍光検出センサを介して、マイクロ流体バイオチップ内のマイクロ流路に照射される。さらに、マイクロ流路内の蛍光色素から放出される蛍光を蛍光収集用マイクロレンズで収集し、光学干渉フィルタにより、選択的に蛍光成分のみを取り出し、a-Siフォトダイオードで検出する。同蛍光検出装置を用いて、ポリスチレン製マイクロビーズ上に固定化された抗体を蛍光色素が結合したタンパク質(蛍光標識化タンパク質)により検出した。マイクロ流体バイオチップ内のマイクロ流路には、せき止め構造が形成されており、抗体が固定化されたポリスチレン製のマイクロビーズが充填、固定化されている。

LED励起蛍光検出装置の構造と流れ方向に沿ったマイクロ流路断面構造。検出装置は、外寸サイズが40mm×40mm×20mmで、蛍光検出に関わる心臓部となるLEDや蛍光収集用マイクロレンズ、集積型蛍光検出センサなどのサイズは15mm×5mm×6.4mmとなっている

このような状態で、ビーズに固定化された抗体と反応する蛍光標識化タンパク質を導入し、続いて緩衝液を流し、その間の蛍光の時間変化を検出した。蛍光標識化タンパク質を流すと、時間経過とともにビーズ上の抗体との反応が進行して蛍光標識化タンパク質がビーズ上にトラップされ、蛍光強度が増加するが、緩衝液に切り替えると、反応が停止し、ビーズに固定化された蛍光標識化タンパク質からの蛍光が観察されるため、蛍光強度は飽和する。この結果は、同蛍光検出装置が臨床検査で重要なイムノアッセイを行えることを示している。

抗体との反応による蛍光強度の時間変化

今回開発した超小型LED励起蛍光検出装置は、これまで研究室にとどまっていたマイクロ流体バイオ分析技術を、POC診断、ウェアラブルな健康モニタリングデバイスなどの現場に持ち出すための新しい検出プラットホームになる。今後は、LEDが面発光源である特徴を生かし、LEDやマイクロレンズを量産性の高い実装技術を用いて組み立てる手法を確立するとともに、さらなる小型化と高感度化の両立を目指す。また、半導体レーザのウェハレベルパッケージング技術の開発も進めており、POC診断に早期実用展開を図りたいとコメントしている。