第3回では、新規案件の受注を例に、「仁義を切る」など複数の用語を取り上げる

どんな業界でも、「業界用語」というものは存在する。業界の外の人からすると、何を言っているのかわからないことが多いものだが、一度覚えるとこれがなかなか(いろんな意味で)便利なので、ぜひ使いこなしたいものだ。この「クリエイティブ語講座」では、主にクリエイター界隈で使われている"クリエイティブ用語"を、デザイナーである筆者が例を交えながら解説していく。

今回は新規案件を受注する場面を想定し、頻繁に使用される用語について例文を作成してみた。

今回の例文

<仕事のはじまり編>
(代理:広告代理店/クリ:クリエイター)

代理「新規の案件があるんですけど、いま手空いてます?」
クリ「大丈夫です!」
代理「クライアントが●●製菓で、チョコレートの広告なんですが」
クリ「あっ…それ、一度仁義切らせてもらっていいですか?▲▲製菓さんのクッキー、うちなんで」
代理「了解です。なるはやで連絡ください」

翻訳

<仕事のはじまり編>
代理「新規の案件なんだけど、やる?」
クリ「やった!やりますやります!」
代理「クライアントが●●製菓でチョコレートの広告なんだよね」
クリ「あっ…やば、そこ競合かも。▲▲製菓のクッキーの広告、うちでデザインしてるんです」
代理「マジか。今回の案件、君のところで受けられるかどうか超特急で確認して」

用語解説

[仁義を切る]

ヤクザのような用語だが意外とよく使う。商品は違えど、競合(ここではどちらもお菓子メーカー)にあたる他社の仕事を受ける場合、もう一方の会社に事前告知を行うことを指す。競合コンペなどでなじみのA社ではないところから声がかかり、B社とタッグを組む場合(つまりなじみのA社とは敵同士になる)場合も、その仕事を受ける前にA社に「今回の○○のコンペ、B社と組む事になりそうで…」と一報いれるのがマナーとなっている。

その際、今後のことも考えて「今回、御社から声かけてもらえなかったからB社とやっちゃうよ!負けても知らないよ!声をかけてくれない御社が悪いんだからね!…でもホントは、御社とやりたかったんだからね…」といったような、恋にも似たジェラシーをそこはかとなく、かつ嫌味なくほのめかしておく事も大事だ。

また、「仁義を切る」ことをうっかり怠ると、最悪の場合「あいつは恩知らずだ」、「あの会社は礼儀も知らない」など、業界の中で悪評が立ってしまうこともありうるので十分気をつけたい。

[なるはや]

こちらも超頻出用語。なるはや=「なるべくはやく」の略だが、本当のところの解説をするならば、「なるはや」は「なるべく」、などではなく「超特急で!」というニュアンスで使われるほうが圧倒的に多い。

ただ、人によってはたいして急いでもいないのに何でもかんでも「なるはやで」と挨拶のように言ってくる人もいるので、相手のキャラクターをしっかり見極め、優先順位をつけるよう注意が必要だ。

おわかりいただけただろうか。「仁義を切る」は用語というよりこういう場合の対処方法として、しっかり頭に入れておきたい。競合でもちゃんと仁義を切っておけば、むしろ未経験よりも話が早いので、"他社だけど似た感じのデザイン"の実績があるほうが有利に運ぶことも少なくない。ではまた次回!

くすきはいね
コトバ&グラフィックデザイナー。
広告デザインやロゴ、カフェのプロデュースなど、多方面にわたる「デザイン」を手掛ける