東京農工大学(農工大)は、電気駆動により、半導体チップ上でテラヘルツ波の粒を約50%の伝送効率で発生、伝送、検出することに成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学研究院 先端物理工学部門の生嶋健司准教授らによるもの。詳細は、「Applied Physics Letters」に掲載された。

電子や光は、波でも粒子でもあると理論づけた量子力学において、次世代技術として注目されるのが量子情報技術である。電子による量子ビットは制御性や集積化に向いているが、ノイズ耐性に弱いことが知られている。一方、光の粒(光子)は環境との相互作用がほとんどないことから、電子に比べてノイズ耐性に優れている。したがって、電子のように光子を電気駆動により固体チップ上で制御することが可能になると、将来の量子コンピュータの実現に向けて大きな可能性が広がると考えられている。しかし、これまで固体チップ上で電気駆動により光子を発生から伝送、検出の過程までの制御を実現することはできなかった。

電磁波の粒子と波動の二重性において、波動性を特徴づける波長が長くなると、粒子性を特徴づける光子エネルギーは小さくなるという関係にある。これに、エレクトロニクスの技術を活用すると、マイクロ波に代表される電波は波長が長いため、半導体チップ上の金属平面導波路により電波を効率よく伝送することができる。しかし、光子エネルギーが小さいため、光の粒として検出することが困難だった。一方、光子エネルギーが大きい光の領域では粒子性を検出することは可能だが、波長が短いため、半導体チップ上の導波路の伝送効率は十分ではなかった。

研究グループは、光と電波の狭間にあるテラヘルツ周波数帯(1012Hz)の電磁波(テラヘルツ光、またはテラヘルツ波)において、波動性と粒子性の両方を制御する半導体素子の開発に取り組み、GaAsとAlGaAs化合物半導体を積層構造(ヘテロ構造)にしたチップを作製した。発光部は、量子ホール効果を利用したテラヘルツ発光ダイオードで構成され、テラヘルツ波の波長(GaAs内で約38μm)以下の微小な点光源となっている。この点光源に、テラヘルツ波帯用に設計された平面ストリップラインを結合させ、同一基板上に作製された光子検出部まで配線した。光子検出部は、単電子トランジスタとして動作する量子ドットを用いている。このオールインワンチップにより、電気駆動でテラヘルツ周波数帯の光子を発生させ、約50%の伝送効率で0.5mmの距離に渡って伝送した光子を検出することに成功した。

今回の集積テラヘルツ回路における光子の発生、伝送、検出によって、電気駆動で固体チップ上の光の量子実験が可能であることを証明した。今後、テラヘルツ共振回路やテラヘルツ干渉回路などを集積化し、光子を基本要素とした量子演算素子の実現に向けた研究を進めるとコメントしている。

研究の概念図

作製された半導体チップ