OLPCとは異なるアプローチで教育分野での活用を目指す

--次にビジネス面で。今はRaspberry Pi財団はRaspberry Piを製造し、それをRaspberry Piのコミュニティに販売するというビジネスになっていると思いますが、これをもうすこし広げる、あるいは別の方向に進むといった可能性はありますか?

すでに産業向けにRaspberry Piをリリースしており、これを組み込む形で製品が出荷されているし、そうしたビジネスをサポートしている。

--その場合だと産業向けの温度範囲(-40℃~+85℃)のサポートなどが必要ではないですか?

すでにチップそのものは産業向けの基準を満たしている。コンポーネントレベルで言えば、産業向けのものが必要なユーザーは、今のところそれを自身でQualifyする必要がある。すでに10万枚のオーダーのRaspberry Piが産業用に使われており、0℃~25℃の範囲で動作している。もし-40℃~+125℃の動作範囲保障が必要なら、思うに自身でシリコンを入手して、自身でこれに準拠したボードを製造すべきだと思う。

--ただ-40℃の要求は産業用とか、特に自動車向けでは必須ですよね?

その通り。だからそういった用途に使う場合は何がしかの作業は必要になる。あるいはアドバルーンとか成層圏に届くような宇宙での動作とか、そうしたケースも考えられるしね。

--そうした状況では、どなたがそうした産業向けビジネスの面倒をみておられるのでしょう?

Raspberry Pi財団自身がそうしたビジネスも扱っている。そうしたビジネスをユーザーが行う際に、たとえばエンジニアリングの観点で欠けている部分が出てきたら、それを我々が埋めるように努力している。我々自身、そうした事にアドレスしている。

--次に教育に関して。Raspberry Piのターゲットは欧米だけではなく、BRICs諸国やアフリカなども含んでいると理解していますが。

我々は開発環境が重要なマーケティングツールだと理解している。それは学ぶためのツールでもある。例えばある開発コミュニティにとって、Raspberry Piはコンピュータそのものである。動作するために必要な環境を全部そなえた、ローエンドのコンピュータであり、TVと繋いですぐに使う事ができる。

--もちろんハードウェアの観点からすればすでに十分でしょう。ただソフトウェアの観点から見ると、様々なマテリアルやドキュメントの翻訳なども当然必要ですよね?

我々はGoogleから寄付を受けており、これは主に英国の生徒にRaspberry Piを寄贈する形で使われたが、他にも教育用の資料の充実にも費やされている。これは子供にプログラミングの経験を積ませるのに有用だろう。そもそも教師が必ずしも高いエンジニアリングの素養を持っているとは限らないから、こうした教育用の資料は生徒だけでなく教師にとっても有益であると思う。

--そうしたモデルというとOLPCを思い出すのですが、ただ御存知の通りOLPCはハードウェア以外にも色々普及のための阻害要因があって広く普及しているというのには遠い状況です。

我々は異なる展望を持ち、異なるアプローチを取る。我々はOLPCの様にコンピュータを単体で提供するのではなく、TVとつなげて使う形で提供する。我々は慎重に事を進めたいと思う。我々はOLPCと比べると、もう少し開発者寄りの立場にある。新しい領域に進出するには様々なインフラ、特に人的なインフラが非常に重要である。例えば今の時点で我々はアフリカに進出したいと思っている訳ではない。それは非常に困難な目標だろう。アフリカでビジネスをしようとしたら、スケールがまったく変わってくるし、膨大なコストが掛かってくる。商業的な観点で見た場合、現状では非常に難しいだろう。

--いつそうした国々にも展開できると思います?

もちろん今でも(そうした国々の人が)買う事そのものは可能だがね。たとえば日本というのは、いわば(潜在的な)開発者(が一杯いる)国であって、潜在的な日本の能力は高いと思う。では、例えば6カ月間BRICs諸国に注力したとすればどうなるか? というと、こちらも大きな成果になるだろう。特に中国は小さな工場が一杯あるし、すでにいくつかの企業にライセンスを供与している。中国、台湾、澳門などではこうした形での拡販が行われている。

特に中国では非常に好評だ。LinuxとARMの組み合わせで高性能プロセッサ環境を手軽に入手できるからだ。Media CenterやWeb Browser、Office Suiteなども実行できるし、もちろんProgram Platformでもある。こうした事が普及のきっかけになると私は信じている。

--そこで1つ疑問です。そうした国々ではWired Ethernetは必ずしも適当とはいえないと思うのですが?

例えば中国では、これに関してWi-Fiとどちらがポピュラーかをパートナーと話し合いを行った。確かにWi-FiをサポートするようなスペシャルなRaspberry Piを用意することは出来る。ただDistributorはRaspberry Piに載せられるWi-Fiアダプタを提供できる。もちろんこうした事情は国によって異なるが、今のところは現在の構成+アダプタで対応できると考えている。

--でもBroadcomとしてはWi-FiチップやWi-Fi Comboチップを大量にラインアップされてますよね?

確かに。いやBroadcomの人間として言えば(笑)、我々は非常に沢山のWi-Fiソリューションを提供できる事を誇りに思っているよ(笑)。現在で言えば20種類以上の製品がある。実際、中国にはBroadcomのWi-Fiチップを載せた(Raspberry Pi用の)アダプタがある。