海洋研究開発機構(JAMSTEC)は1月30日、1万m級の大深度用小型無人探査機「ABISMO」を用いたマリアナ海溝での調査で、水深7900mにおける次世代高画質映像規格「4Kカメラ」による映像撮影に成功した(画像1・2)と発表した。
成果は、JAMSTEC 海洋工学センター海洋技術開発部の小栗一将氏、同・後藤慎平氏、JAMSTEC 海洋・極限環境生命圏領域の布浦拓郎主任研究員らの研究チームによるもの。
4Kカメラ映像のキャプチャ画像(画像1:左)と画質の比較(画像2:右)。キャプチャ画像は、カメラシステムを取り付けた「ABISMO」が着水する瞬間。右は船体文字の拡大画像画像 |
数千mを超える深海の調査では、限られた潜航時間の中でできるだけ多くの情報を取得する必要がある。特に、深海生物の生態や生息環境、複雑な海底地形などの状態を詳しく知るには、より高精細な映像・画像による観察が重要だ。現在の探査機による水中での映像観察はハイビジョン(画素数1920×1080)が主流であり、詳細な生物の画像撮影にはスチルカメラが多く用いられている。
しかし、静止画像だけでは生物の微細な動きを把握することは難しく、一方でハイビジョン映像ではスチルカメラに比べ画質が約1/10であり鮮明な映像が撮影できないという問題があった。また、ハイビジョン映像はデータ量が大きくケーブル通信が必要であることから、システム全体が大型化し搭載できる機器にも制限が生じてしまう。このことから、高精細な深海映像を撮影ができる小型で利便性の高いシステムの開発が望まれていたのである。
そこでJAMSTECでは今回、ハイビジョン映像の4倍の画素数3840×2160という画質を有する4Kカメラによる海底観察を可能とするマルチ4Kカメラシステムを開発した(画像3)。このシステムは、水深8000mの圧力にも耐えられる、江戸っ子1号にも使用された岡本硝子製の国産13インチガラス球が外核として使用されている。その内部に市販4Kカメラ、制御基板、電源用バッテリーを搭載しており、外部からの電源供給や複雑な制御を必要としない独立したシステムだ。さらに制御回路とはWi-Fiで接続されており、コネクターなどによる探査機との接続は不要で、撮影開始時刻の設定などはガラス球越しに行える仕組みだ。
2014年1月、このシステムを大深度用小型無人探査機「ABISMO」のランチャー、およびビークルに取り付けマリアナ海溝において稼働試験が行われた。ところ0画像4)、そして水深7900mで高精細映像を取得することに成功したというわけだ。4Kカメラが超深海の様子をとらえたのはもちろん今回が世界でも初めてとなる。また、水深7600mでは底生生物が活動する様子の撮影にも成功したほか(画像5・6)、外部からの電源供給を必要としないことから、これでまでは困難だった探査機の投入から揚収までの様子を高精細映像で撮影することにも成功した。
画像4(左):「ABISMO」ビークルに取り付けられた4Kカメラシステム(側面下側のオレンジ色の半球体)。画像5(中):水深7600mにて撮影された深海生物(画面をキャプチャしたもの)。等脚類の「ミズムシ」の仲間。画像6(右):「有孔虫」の仲間「ゼノフィオフォア」 |
今回のシステムは、ガラス球にコネクターなどを接続する必要がないため、通信ケーブルやマニピュレータを持たない自律型無人探査機(AUV)などの探査機のほか、特定の観測に特化してきた海底地震計(OBS)やマルチプルコアラ―などの観測装置など、あらゆるタイプの探査機や観測装置に容易に取り付けることが可能だ(画像7)。
また、撮影された映像はカメラ自身に記録されるため、船舶側に光ファイバー通信設備など特別な受信設備を持つ必要がなく、これまで以上に水中での撮影機会を増やすことができる。さらに、撮影開始のタイミングや撮影間隔などの設定を変更すれば、海底に設置して深海生物や沈降粒子(マリンスノー)などの海底環境の日周期変化や季節変化などの長期観測撮影にも対応できるなど、目的にあわせた多様な撮影を行うことも可能だ。
同システムの開発により、さまざまな場面においてより高精細な映像を取得できるようになり、まだ明らかにされていない深海生物の生態解明や海底地形の調査に大きく寄与することが期待されているという。今後はガラス球以外の小型容器などにも格納できるよう、システムのさらなる小型化を図り、カメラ機能拡張による性能向上を目指して研究開発に取り組んでいく予定とした。なお、下の動画は
動画。今回のマルチ4Kカメラシステムによる今回の映像 |