九州大学(九大)は12月20日、正三角形状の微小強磁性体を用いて、適切な方向に磁界を加えることで、磁性体の共振周波数を広い周波数範囲でチューニングできることを見出したと発表した。

同成果は、同大 稲盛フロンティア研究センターの家形諭特任助教(現福岡工業大学助教)、システム情報科学研究院の田中輝光助教、理学研究院の木村崇主幹教授らによるもの。詳細は、「Scientific Reports」に掲載された。

スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器の普及により、マイクロ波を使った通信技術の高速化が求められている。磁石として広く知られる強磁性体は、特定の周波数のマイクロ波磁界で磁気モーメントが共鳴することが知られており、GHzを超える高周波領域でも安定して動作するため、次世代マイクロ波デバイスとしての可能性が期待されている。中でも、マイクロメートルからナノメートル程度のサイズに加工された微小強磁性体中では、磁気渦構造と呼ばれる特異なスピン配列が形成され、分散が小さく、熱的にも安定した磁気渦構造特有の共鳴特性が得られるとして注目されている。磁気渦構造の共振周波数は、微小磁性体の直径や辺の長さなどで、自在に制御できるのが特徴だが、動作周波数を変化させるためには、形や大きさの異なる別の微小磁性体を準備する必要があった。

ナノサイズの強磁性体円盤に安定化する磁気渦構造の概念図。図中の円錐は、各位置でのスピンの方向を示している

研究グループでは、鉄とニッケルの合金を用いた正三角形状の微小磁性体においても磁気渦構造を安定化させることができ、さらに磁界を加えることで、磁気渦の中心を三角形内の任意の位置に移動させる技術を確立していた。そこで今回、磁界印加により、磁気渦中心を三角形の頂点側に移動させ、磁気渦の閉じ込めポテンシャルを連続的に変化させた場合の共振特性を調べた。この結果、磁気渦の共振周波数は、磁界がない時の200MHzから、磁界とともに連続的に増加させると、40mTの磁界(400ガウス相当)で600MHzにまで変化することを見出した。これは、渦中心が頂点側に移動するに従い、磁気渦がサイズの小さい磁性体中に閉じ込められたように錯覚し、共振周波数が増大したためと考えられるという。

(a)磁気渦共振特性評価系の概念図。(b)正三角形状の微小磁性体で観測される共鳴スペクトル。挿入図は、正三角形強磁性体内部のスピン構造を示す磁気力顕微鏡像。(c)共鳴スペクトルの印加磁界依存性。磁気渦中心が頂点側に移動するに従い、共振周波数が増大しているのが確認できる

今回実現した周波数範囲はGHz以下だったが、微小磁性体の膜厚を厚くすることで、GHzを超える高周波化が可能になる。また、コバルトや鉄などのより大きな磁力を持つ磁性体を用いることでも高周波化が期待できる。このような多彩なスピンの共鳴特性は、帯域周波数が可変なマイクロ波フィルタの実現や情報通信機器の小型化、通信速度の高速化などにつながると期待されるとしている。