京都産業大学を中心とする研究チームは11月14日(日本時間、以下すべての日付は日本時間)、すばる望遠鏡で急激な増光が始まった直後のアイソン彗星(C/2012 S1)の分光観測および高精度のスペクトルデータの取得に成功したと発表した。

急増光中のアイソン彗星の可視光高分散スペクトルをエシェルフォーマットと呼ばれる生データのまま表示させたもの。すばる望遠鏡に搭載されたHDSを使い、積分時間20分間で得られたという。同じくHDSで観測された他の彗星のスペクトルに比べて、ガスの輝線(縦方向に写っている明るい筋)の本数が多く見られるほか、C2、NH2、H2O+、O、Naなどによるガス輝線が検出されている

研究チームは、アイソン彗星が11月14日以降に急激な増光を起こし、2日間で10倍以上の明るさになったことを確認。その後、すばる望遠鏡に搭載した可視光高分散分光器(HDS)を使い、11月16日の0時8分、彗星の高度角が約20度、天候が薄曇りという悪条件の中で20分間の観測に成功したという。

さらに、研究チームは観測成功によって得られたスペクトルデータから、ナトリウム原子の生成機構についての新たな知見が得られる可能性があることを発見。これまでナトリウム原子の輝線は、ナトリウム原子が彗星に含まれる塵から蒸発して出てくるものと考えられていたが、観測当時のアイソン彗星の塵による反射光は弱く、今回のケースでこの考え方は当てはまらないこともわかったという。

アイソン彗星のスペクトルの一部。横軸は波長(ナノメートル)、縦軸は相対的な強度で2本の非常に強いナトリウム輝線が観測されている(図中のNa)。弱い輝線は主にC2分子によるもので広い波長域にわたって光が来ている成分は、彗星核から放出された塵によって反射された太陽光に由来する

今後研究チームでは、原始太陽系円盤から彗星に取り込まれた分子の形成温度や、増光の原因となった可能性のあるガスの成分比などをさらに詳しく調べ、アイソン彗星の起源や増光のメカニズム、太陽系の成り立ちなどを研究するとしている。

HDSのスリット上に捉えたアイソン彗星の姿。急増光の原因の一つとして彗星核の分裂が考えられるが、この画像ではその兆候は見られていない

観測チームの様子。当夜はうす雲がたびたび通過し、観測者たちは一喜一憂しながら空の状態を監視しつつ、彗星の観測を実施した。左から、京都産業大学大学院生の長島雅佳氏、観測責任者の新中善晴氏、そしてハワイ観測所の田実晃人氏