「Pentawards(ペントアワーズ)」というデザイン賞をご存じだろうか。これは飲料や食品、香水から洗剤まであらゆる形態の包装パッケージデザインを対象とした、世界初の国際コンペティション。応募作品の審査は、国際的な審査員で構成されたインターナショナルな審査員団によって行われ、先日今年の受賞作たちが発表された。

パッケージデザインに特化した国際的アワード「Pentawards」のWebサイト

このコンペでは、日本から応募された作品も数多く受賞を果たしている。今回は飲料や食品に的を絞り、世界でもウケている「メイドイン・ジャパン」の製品を、デザイナーとしての視点から紹介する。

キリン「澄みきり」

はじめてこのパッケージをコンビニで見たとき、デザインにひかれて手にしたキリンの「澄みきり」。この商品は公式Webサイトをみてもわかる通り、デザインに対してのこだわりも尋常ではない。シルバー基調のパッケージは、3種類の銀色を用いてニュアンスを出している。製品担当者によれば、聖獣キリンの色で"ビールの味"を伝えるため、ひげの色からお腹の色までパターンを作成して検証を重ねたというから驚きだ。

また、余分な装飾を一切排除したシンプルなパッケージに、製品名が縦書きで書かれているのも非常に印象的。製品担当者によれば、製品にこめられた、竹を割ったような「潔さ」を表現するために縦書きを採用したとのこと。フォントも日本のものをイメージさせるよう明朝系の書体にし、なおかつ「潔さ」を表現するため「澄」の字の最後の一画にクセをつけているという。海外の「日本ファン」にも伝わりやすく、かつ唾涎モノのエピソードであろう。なお、「KATANA(刀)」というデザインコンセプトも、この「潔さ」を象徴する"研ぎ澄まされた刀"のイメージを、現代的なローマ字で記したものだという。

そのほか、色合いについても工夫しており、微妙なニュアンスを表現するためシルバーという色だけでも3種類利用している。

かどや「mikanz」

「mikanz」は、和歌山県産みかんのブランド。段ボール箱のデザインに関しては「まあ可愛いね」というだけなのだが、箱をひらくとなんと、顔のついたみかんたちが…!

みかんに「顔のシール」を貼るという発想が面白く、そして、ただそれだけなのにすごく癒される。みかん一つひとつにシールを貼って出荷しているそうで、これぞ他の国には真似できないジャパンクオリティであろう。「なぜそこまでやる」という、審査員のあきれ顔がほんの少しだけ脳裏に浮かんだ。

資生堂「クレ・ド・ポー ボーテ」

フランス語で「肌の鍵」という意味をもち、そこに「未知の美しさへの扉を開ける」という思いが込められたコスメブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」。"自ら輝く肌、内側から輝きを放つ肌へ"というブランドコンセプトを体現した、表面だけでなく内側から万華鏡のようにキラキラと輝くパッケージに「本当に女性はキラキラしているものが好きなんだな」と実感させられずにはいられない。製作にあたり想像をはるかに超える時間を要したであろう不思議な構造のパッケージに一票、である。

全体を通して、日本発の作品の多くは「日本らしさ」が評価されて受賞に至ったように思われる。極端にいえば、日本刀などの象徴的なアイテムはやはりウケがいいだろう。また、あくなきこだわりや繊細な心遣いといった「日本の心」もまた、日本の象徴として評価されているに違いない。そして何より、本当にわかりやすい「I LOVE JAPAN!」みたいなパッションが、いまだに世界を惹きつけてやまないのだろう。

日本に暮らすわたしたちも、このアワードで賞を受けた日本らしい意匠やコンセプトをもつデザインをもう一度正面から捉えてみると、新たな発見があるかもしれない。

くすきはいね
コトバ&グラフィックデザイナー。
広告デザインやロゴ、カフェのプロデュースなど、多方面にわたる「デザイン」を手掛ける