九州大学(九大)は11月8日、固体酸化物電解質燃料電池(SOFC)の低温作動化などへの応用が期待できる、新規高酸素イオン伝導体「Na0.5Bi0.5TiO3」を発見したと発表した。
同成果は、同大 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER) 水素製造研究部門主任研究者/インペリアルカレッジロンドンのJohn A. Kilner教授らによるもの。詳細は、英国学術誌「Nature Materials」のオンライン版に掲載された。
現在、固体酸化物電解質燃料電池(SOFC)はすでに普及が進んでおり、CO2の排出量削減に寄与する発電方式として期待されている。SOFCの電解質としては、Y2O3安定化ZrO2が主に使用されているが、酸素イオン伝導度が十分ではないことから、これに代わる新しい酸素イオン伝導体の開発が求められている。これまでの研究で、酸化セリウム(CeO2)や酸素イオン混合伝導体、およびそれを用いた酸素透過膜(LaGaO3)などがY2O3安定化ZrO2を凌駕する酸素イオン伝導性を発現することが分かっている。しかし、これらを上回る酸素イオン伝導体の開発が課題だった。
一方、NBTはPbを含まない圧電体として、実用化が期待される材料だが、製造法で電気的な抵抗が不規則になることが問題だった。このことから、NBTを圧電体や強磁性体として応用するには、電気的な性質の均一化が強く求められていた。今回、NBTの電気的な性質の変化が酸素イオン伝導性によるものであることを発見した。これにより、発見した材料が新しい酸素イオン伝導体として応用できることを明確にした。
開発した材料は、NBTのペロブスカイト型といわれる構造を有する酸化物であり、結晶格子は、大きいイオンサイズのAサイトイオンと、小さいBサイトイオンから構成される化合物となっている。同じ構造の酸化物では、LaGaO3系の酸化物が酸素イオン伝導性を有することで知られているが、今回、さらに優れた酸素イオン伝導度を有する化合物を見出すことができた。
今回見出したNBTの伝導度を、他の代表的な酸素イオン伝導性を有する酸化物と比較すると、Biの欠損とTiサイトへのMgの添加により、酸素イオン伝導性が向上し、400℃以下の低温においてはLaGaO3系酸化物より、数倍大きな酸素イオン伝導性を発現することを見出した。同材料における酸素イオン輸率(酸素イオンが電荷を運ぶ割合)をN2-O2ガス濃淡電池のセルの起電力から測定したところ、0.9以上のイオン輸率を示し、新規の酸素イオン伝導体であることが分かった。現在、安価なTiやNaからなる酸素イオン伝導体は報告がなく、今回の研究で比較的安価な元素から構成される酸素イオン伝導体が開発できた意義は、非常に高いものだとしている。
現在、酸素イオン伝導体は、いずれも希土類などの希少元素が使用されており、価格や資源量などの課題がある。今回開発された材料はNa、Bi、Tiから構成される材料であり、比較的安価な元素から構成された材料のため、電解質の低価格化において大きな波及効果が期待される。また、従来材料に比べて酸素イオン伝導度も高く、特に低温での伝導度が高いことから、低温作動型SOFCの研究において、大きな影響を与えると考えられる。
研究グループでは、今回新しい酸素イオン伝導体が見出されたことから、今後はNBTを電解質とした燃料電池への応用を検討するとともに、さらに周辺材料を探索することで、大きな酸素イオン伝導性を有する材料の発見と組成が展開されると見ている。特に、低温作動型燃料電池の電解質への利用を研究することで、従来にない400℃程度の低温で作動する燃料電池が可能になる他、起動特性かつ長期安定性に優れたSOFCの開発に役立てられる。これらが実現することにより、低炭素社会の実現に大きく寄与することが可能となり、カーボンニュートラルエネルギーの観点で、重要な技術になることが期待できるとコメントしている。