東京工業大学(東工大)は10月10日、内部は絶縁体で表面だけがグラフェンに似た特殊な金属状態となるトポロジカル絶縁体と呼ばれる物質の新物質「"極性"トポロジカル絶縁体」を発見したことを発表した。
同成果は、東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授と英オックスフォード大学や米スタンフォード大学などの日英米共同研究チームによるもの。詳細は。英国の科学誌「Nature Physics」に掲載された。
表面だけ電子が超高速で動き回る特殊な絶縁体「トポロジカル絶縁体」は、グラフェンと同様に「2次元に閉じ込められた質量ゼロの電子(=ディラック電子)状態」を表面にもつことから、従来の特性を凌ぐ機能や新たな機能を持った電子デバイスへの応用が期待されている。
また、グラフェンが真似できない優れた性質として「単層原子シートである必要がない」、「電子スピンも方向を揃えて伝導する」、「伝導状態が不純物で乱されない」、「磁性や超伝導との相互作用により革新的な電子機能につながる新奇量子状態が出現する」などがあり、世界中で実用化可能なトポロジカル絶縁体の材料開発が盛んに進められている。
今回発見された新種のトポロジカル絶縁体物質は、ビスマス、テルル、塩素が交互に積層した結晶構造をもつ化合物で、実験では原子の並び方を反映して六角形に育つ単結晶の試料作製に成功。これを用いて電子構造の詳細を直接観察することが可能な「角度分解光電子分光法」を用いて実験を行った結果、同物質が、新種のトポロジカル絶縁体であることが判明したという。
また、従来確認されていたトポロジカル絶縁体は、すべて極性のない結晶構造(空間反転対称性)をもっていたが、今回の物質は、ビスマス、テルル、塩素の組み合わせを1単位として繰り返しが行われるため、表と裏をもつ構造となり、それぞれの原子の電子を引き寄せる力の違いが単位構造の中で打ち消されず、磁石のNS極のように、層の上面と下面の両端に電荷の偏りをもつ極性構造となっていることが確認された。
さらに、同極性を有する新物質では、結晶の上部と下部で別層が表れることになり、超高速で動き回れる表面ディラック電子も上面と下面で異なる状態になることが予想されることから、観測を行った結果、確かに異なった電子構造を持つことが確認されたほか、電子の分布状態にも大きな違いがあることも判明したという。具体的には、片方の面は電子を過剰にもつn型、もう片方は不足したp型の電子状態になっており、これまでになかったトポロジカル絶縁体のpn接合が自発的に生じている物質であることが確認されたとする。
なお、トポロジカル絶縁体には、エネルギーロスなしでスピンの揃った電流を流したり、(電流ではなく)電場で磁化を発生させたりできるような、グラフェンを凌ぎ、トポロジカル絶縁体でしか実現できない数々の電子機能が理論予測されているが、従来のトポロジカル絶縁体は先述の通り、上表面と下表面とが逆向きであるため、スピンの流れや磁場を打ち消してしまうという課題があり、デバイスを実現するためには複雑な構造を採用する必要があった。しかし、今回発見された極性トポロジカル絶縁体を用いることで、格段にシンプルな構造を用いた新原理デバイスを開発することが可能になることが期待されると研究グループでは説明している。