富士通研究所は9月26日、携帯電話基地局などの高周波用無線装置に使われる送信電力増幅器において、高い電力効率(出力電力と全消費電力の比率)を実現する回路技術を開発したと発表した。

詳細は、10月24日に東北大学で開催される電子情報通信学会マイクロ波研究会にて発表される予定。

近年、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末の普及により、携帯電話基地局の数も年々増加している。一般的に携帯電話基地局などの高周波用無線装置は消費電力が大きく、中でも送信信号を増幅するために用いられている送信電力増幅器は最も消費電力が大きい。したがって、送信電力増幅器の低消費電力化は、無線装置全体の低消費電力化に非常に効果があり、環境負荷低減などの面からも要求が強まっている。

図1 携帯電話基地局の構成イメージ図

送信電力増幅器は、一般的に出力振幅に応じて電力効率が変動するため、広い出力範囲で高い電力効率を実現することが困難だった。例えば、現在の携帯電話基地局で用いられている送信電力増幅器では、送信信号全体に占める電力効率が高い出力範囲の割合は約65%に留まっていた。

そこで、広い出力範囲で電力効率を高める方式として知られているアウトフェージング方式の採用を検討した。同方式は、まず送信信号を振幅が一定で位相が異なる2つの信号に分離する。それらの信号を増幅素子の電力変換効率が高い動作範囲で増幅し、その後、合成回路でベクトル合成して再生する。しかし、合成回路の損失や信号再生の際の位相差に対する要求精度の面から、現在は高周波無線通信用途には使われていなかった。

図2 アウトフェージング方式の動作原理

今回、送信電力増幅器にアウトフェージング方式を適用し、小型低損失な合成回路と、デジタル信号処理による高精度な位相誤差補正技術の開発により、送信信号全体に占める電力効率が高い出力範囲を従来の約65%から95%以上に拡張した。また、ピーク出力電力100Wの送信増幅器を試作した結果、送信時の平均的な電力効率も従来の50%から70%に向上させたことを確認した。

具体的には、合成回路において、2つの増幅素子が同時に動作している場合の出力負荷インピーダンスと電力効率の関係を正確に解析することにより、従来に比べ合成回路の線路長を短縮した。線路が短くなるため、合成回路の損失を低減し、かつ広帯域化が図れるという。

位相誤差補正技術では、入力側の信号分離をデジタル信号処理で行い、また合成回路の出力誤差を検出しデジタル信号処理部へフィードバックすることで、高い精度で位相差を補正して信号を正確に再生できるようにした。

図3 今回開発したアウトフェージング方式の構成

図4 従来方式との電力効率比較

今回の技術を用いることで、携帯電話基地局などの高周波無線装置の低消費電力化が図れる。例えば6万台の携帯電話基地局無線部のRRH(Remote Radio Head)に導入した場合、2650t-CO2/年の削減効果が期待できる。今後、同技術を適用できる周波数や出力などの範囲を広げ、実際の無線システムに適用できるように性能を向上させていく。また、携帯電話基地局などの無線装置の要求条件に合うように開発を進め、2015年の製品適用を目指すとしている。