京セラとLGエレクトロニクスは8月29日、共同で記者会見を開催し、京セラの「ピエゾフィルムスピーカー」をLG製湾曲型有機ELテレビに搭載したと発表した。
ピエゾフィルムスピーカーの中核をなすピエゾ素子は、京セラが得意とするファインセラミックスの材料技術や積層技術によって開発されたもの。ピエゾ素子は、スピーカーだけではなくプリント機器のインクジェットプリントヘッドへの応用や自動車部品に応用展開されている。
一番知られている応用展開では、同社が製造を行っているスマートフォン「DIGNO」シリーズへの採用だろう。スピーカー口がないデザインでありながら音が聞こえ、端末を頭に当てることで騒音が激しい場所でも音声が聞こえる「スマートソニックレシーバー」として応用されている。
このピエゾ素子と、樹脂フィルムを組み合わせることによって、製造に成功したスピーカーが厚さわずか1.0mmの「ピエゾフィルムスピーカー」だ。
同スピーカーの特徴は以下の4点。
超薄型・軽量
広い指向性
脱レアアース
豊富なラインナップ
1点目の「超薄型・軽量」という点では、1.0mmながら、20.0~30.0mmの従来型電磁式スピーカーと同等レベルに音が出力できることを強調。スピーカーを取り付ける機器の設計自由度が大幅に向上するという。
続く2点目の「広い指向性」では、面振動によって中心に偏ることなく、前方180°の全域に均一の音を伝えることができる性能をアピールした。
従来型電磁式スピーカーは、マグネットとコイルが持つ磁界の反発力を利用して音を出しているため、ネオジムなどのレアアースが使用されている。だが、ピエゾフィルムスピーカーの場合、セラミックスと樹脂で構成されている製品のため、ネオジムなどのレアアースを使用せず、供給に左右されない製品作りや環境に配慮した製品作りが可能になっているという。これが3点目の「脱レアアース」だ。
また、マグネットを使用しないため、非磁性・非磁界が特徴となっており、TVなどを作る上で避けて通ることのできない他デバイスへの干渉を抑えることもメリットが挙げられる。
最後の4点目では、ピエゾフィルムスピーカーを小型、中型、大型の3種類用意し、様々な製品への応用を模索している。
各サイズの仕様は以下の通り。
サイズ | 小型 | 中型 | 大型 |
---|---|---|---|
大きさ (縦×横×厚さ) |
19.6×27.5×0.7mm | 35×65×1.0mm | 70×110×1.5mm |
重量 | 1g | 7g | 23g |
再生周波数帯域 | 800Hz~20kHz | 500Hz~20kHz | 200Hz~20kHz |
一番大型のものでも厚さは1.5mmとなり、重さも23gでしかない。このラインナップにより、今回発表されたTVへの搭載だけではなく、タブレット端末や車への採用も検討されているが「様々なメーカーからお話はいただいているものの、公表はできない」(京セラ 触 浩 常務)と採用メーカーへの明言は避けた。
車への展開では、大幅な軽量化とスピーカー配置の自由度が最大のメリットと見られる。従来型スピーカーの搭載重量が6kgである場合、ピエゾフィルムスピーカーは数百g程度で同等の音量を出力できるという。軽量で薄型のピエゾフィルムスピーカーであれば、車体の天井に貼り付けるといった設計も可能であるため、天から音楽が降り注ぐといった環境が近い将来体験できるかもしれない。
なお、実際にスピーカーの音質を体感させてもらったが、中高音域は伸びが良くクリアな音質が実現されていた。その一方で、重低音については、京セラも課題と認めているように、バスが響かないやや物足りない印象を受けた。ただ、全体としては超小型スピーカーから流れているとは思えない大音量で音割れしない音質を実現しており、有機ELテレビの美しい画質と共に、プレミアムモデルの貫禄を見せていた。
LGの湾曲有機ELテレビは4Kテレビとして日本で発売?
一方、ピエゾフィルムスピーカーを採用したLGの55型湾曲有機ELテレビは、韓国や米国で4月より発売されているモデルだ。有機ELは、自発光型素子のためバックライトを必要とせず、テレビとして超薄型のデザインを可能とする。
実際に、デモのために持ち込まれた有機ELテレビをサイドから見てみると、薄さわずか4mmの超極薄パネルの素晴らしさを体験できた。湾曲しているため、少し力を入れると「ペキッ」と折ってしまいそうなそのパネルから、ハイエンド機らしいクオリティの高い映像が流れていた。
ただ、マーケティング担当者に話を伺うと「日本の地上波放送は、世界でもトップクラスの画質を誇り、消費者の目も厳しい。そのため、まだまだチューニングが必要」といい、技術メーカーとしての意地を見せていた。
また、実際の日本における商品展開について、LGエレクトロニクス TV研究所 TV AV研究室長であるパク・サンヒ 常務は「日本のハイエンド市場では、急速に4K2Kテレビが拡大を見せており、現在フルHDである有機ELテレビの投入はどうなのか見定めている状況にある。来年あたりにはどうするか方向性を決めたい」と含みを見せた。