放射線医学総合研究所(放医研)は8月13日、1996年から2011年に重粒子線治療を受けた切除不能な脊椎肉腫47症例(48病巣)に対した解析を行った結果、重粒子線治療によって良好な腫瘍制御率、生存率が得られることが判明したことを発表した。

同成果は、放医研 重粒子医科学センター病院治療課の今井礼子 第1治療室医長らによるもので、詳細はがんに関する国際誌「Cancer」オンライン版に掲載された。

脊椎肉腫に対しては手術による切除が第一選択となるが、肉腫が存在している場所や患者の状態によっては、手術ができないことがあり、化学療法や放射線療法が選択されることが多い。しかし、肉腫の中にはそうした治療が効きにくいものも多々あるほか、放射線療法が有効な場合であっても、十分な効果を得るには高い照射線量が必要であり、一般的なX線では、脊髄など周辺の正常組織の放射線障害を避けることが困難なために治療が難しいという課題があった。

こうした背景から、切除不能骨軟部腫瘍(脊椎肉腫を含む)に対する重粒子線治療は、1996年6月から安全性と有効性を確かめるために臨床試験が開始され、厚生労働省が2003年10月より先進医療として認め、現在に至っている。

重粒子線は、側方への線量の広がりが少なく、また深部方向へはその飛程終端で急激に線量が増加し、さらにその深部で急峻に線量が低下する特性(ブラッグピーク)を有しているため、腫瘍の部位に線量のピークを合わせれば、腫瘍周辺の正常組織への影響を少なく抑えることができ、治療後の患者の生活の質を維持できる可能性を高めることが期待されている。

今回の研究は、放医研が行っている、重粒子線治療後の3~6カ月ごとの定期診断をもとに、重粒子線治療の有効性および安全性を評価するために、切除不能な脊椎肉腫47症例(48病巣)に対する治療成績と副作用についての解析が行われた(追跡調査の期間は中央値が25カ月)。

この結果、治療してから5年目までに、がんが再発しなかった割合(5年局所制御率)は79%、5年生存率は52%であり、切除不能な脊椎肉腫に対する治療であることを考えると、良い成績が得られたと考えられると研究グループは説明する。特に腫瘍の大きさが100cm3未満(直径6cm未満)であった15例では再発が確認されなかったという。

また、治療後の副作用については、1例で重度の皮膚炎、別の1例で脊髄炎を生じていることが確認されたものの、生命にかかわる重篤なものは起こらなかったほか、7例では照射した脊椎の圧迫骨折により外科的手術が行われ、その後症状が改善していることを確認。さらに、最も最近の受診時において、28例の生存例のうち22例は、杖なしで歩くことができることも確認されたという。

なお、研究グループでは、今回の成果は脊椎肉腫の重粒子線治療に関する初めてのまとまった報告であり、重粒子線治療が、切除不能な脊椎肉腫に対する有望な治療の選択肢となることを示すものとなると説明している。