大阪大学(阪大)は、名古屋大学、チェコ科学アカデミー、マドリッド自治大学と共同で、走査型プローブ顕微鏡を用いて、表面の個々の原子を動かす条件の解明に成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学研究科の杉本宜昭 准教授、産業科学研究所の森田清三 特任教授、Yurtsever Ayhan特任講師らによるもの。名古屋大学大学院 工学研究科の阿部真之 准教授、チェコ科学アカデミーのグループ、マドリッド自治大学のグループと共同研究で行われた。詳細は、American Chemical Societyの「ACS Nano」のオンライン版に掲載された。

走査型プローブ顕微鏡は、鋭い針(探針)を物質表面に近づけ、表面に沿うように走査することにより、表面の個々の原子を観察できると同時に、表面の1つ1つの原子を自由に動かすことができる。すべての物質は、原子から構成されているので、この原子操作技術によって、様々なナノ材料・ナノデバイスを創製できると期待されている。しかし、これまで探針に依存して、原子を効率的に動かせる場合と動かせない場合があることが分かっており、原子操作を用いたナノデバイスの作製の効率化が課題となっていた。

走査型プローブ顕微鏡

これを受けて、研究グループでは、原子操作の効率が探針にどのように依存するのかを系統的に調べた。まず、様々な探針を用いて原子操作の実験を行い、原子移動の確率を計算した。そこで、1000回以上の原子移動を含むデータを取得し、原子移動の確率を導き出した。次に、それぞれの探針と表面の原子との間に働く相互作用力を精密に測定した。その結果、探針を対象の原子に同じだけ近づけても、その原子を動かせる探針と動かせない探針があることが判明した。

シリコン表面での原子操作の例。矢印で示した1個のシリコン原子を移動させている

さらに、図3のように、原子操作が行えるかどうかと、相互作用力の大きさとの間に相関があることを発見した。具体的には、探針とシリコン原子との間の相互作用力の大きさが1.5nNよりも大きいときは、その原子を動かすことができるのに対し、1.5nNよりも小さいときは、原子を動かせなかった。これらの結果と理論計算により、表面の原子を動かすためには、探針先端がより化学的に活性である必要があることが分かった。これは、探針先端の修飾も含めた制御が、効率的な原子操作に有効であることを示唆しているという。

図3 原子移動の確率と相互作用力のカーブ。(上)原子が動かせる探針の結果。探針を近づけると原子移動の確率を100%まで上げることができる。この探針は、相互作用力が大きく、活性である。(下)原子が動かせない探針の結果。探針を近づけても、原子移動の確率は0%のままである。この探針は、相互作用力が小さく、不活性である

原子操作の研究は、大半が超低温で行われてきたのに対し、今回の研究は室温環境で行っているのが注目すべき点という。探針先端の活性度を制御して、効率的な原子操作が可能になれば、理論計算に基づいたナノ構造の設計を行い、試作と評価によって、機能性ナノ材料、ナノデバイスの開発など、実用化に向けた研究に繋げることが期待できるとコメントしている。